ひわひわのお話。2
嵐は、ある日突然やって来た。
「―――っ!!〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「まだ・・・・・・で・・・・・・から!!」
「―――ら・・・・・ってば!!」
まだ開店前の準備中の段階だった。
外から聞こえるのは、言い争うような声。
途切れ途切れの声から察するに、女の人とうちの新人たちのようだった。
『何だろ、喧嘩?』
「何かあったら困るし、見に行った方が良いか?」
「オーナー自ら動かないでください。危ないですから。」
「心配しなくてもぱんだがいるから多分大丈夫だって。」
中にいた全員の視線が、入口に集まった。
真っ先に飛び出ていこうとするオーナーをamuとあんずさんが制した。
時折、何かがドアに当たる音もしていた。
「―――してっ!!―――は―――のよっ!!」
「―――から・・・・・・を・・・して・・・・・・さい!!」
『・・・俺っ、気になるんでやっぱり見てきます!』
「あっ、おいりせは!!」
おさまる様子のない言い合いに我慢出来ず、
入り口に向かって駆けだした、その時だった。
「・・・だから退きなさいって言ってるのよ!!」
「おわっ!!」
『えっ―――!?』
突然お店の入り口のドアが開いて、
恐らくさっきまで口論していた女の人が店内に飛び込んできた。
進行方向上に突然現れた人影に思わず足を止めたものの間に合わず、
勢いよく飛び込んできた女の人が俺にぶつかる。
『うわっ!』
「キャッ!!」
よろけそうになったところを何とか根性でこらえて抱きとめる。
ここで倒れ込んだりしたら仮にも男と偽っているのにあまりにも軟弱だ。
そして女の人を追うように、入口で争っていた新人たちも入ってくる。
『っツ………』
「おい、大丈夫か?!」
「怪我はないですか?」
『…てて…いや、大丈夫。ちょっと衝撃で………っと。
お嬢さん、大丈夫ですか?怪我はありませんか?』
さすがにぶつかった衝撃はあれど、怪我はなさそうだ。
心配してくれたオーナーとあんずさんに無事を告げ、
俺の腕の中にいた女性の体を離しつつ様子を伺う。
特に目立った外傷はなさそうだ。
「・・・・・・・・」
『あの、お嬢さん…?』
「・・・・・・」
『えーと…聞こえてます?もしもーし?』
「・・・・・・」
女性は俺を見たまま動かない。
異常は特になさそうだけど、回答は返って来ない。
「打ちどころ悪かったとかじゃないよね?」
『いやそんなはずは………』
「さっきまであんなに元気に暴れてたんです。問題なくないですか?」
『それもそうなんだけど…あのー、もしもーし?』
見知らぬ人とはいえ、女性に怪我をさせるなんて
ホストとしてあってはならない話だ。
目の前で手を振ったりしてみるけれど、反応はない。
ただじっと、俺を見つめているだけだ。
見た目から判断して、20代半ば〜後半、といったところだろうか。
キレイな女の人だった。
手入れの行き届いたパーマのかかったふわふわとした髪。
大きな瞳に、長いまつげ、ピンク色に染まった頬。
すっと通った鼻すじに、柔らかそうな唇。
白い肌、細い手首、女性らしい丸みを帯びた体のライン。
微かに香ってくる甘いニオイのする香水。
自分の身が少し悲しくなるくらい、
どこをどうとっても完全なる「女の人」だった。
―――俺とは、正反対だ。
「なぁ…何が一体どうしたんだ?」
「いや、この女性が………なぁ?」
「あぁ………開店前だって言うのに、入るって聞かなくて。」
「開店時間内にまたお越し下さいって言っても無理矢理入ろうとして…」
「男3人を振り払うほどの力で、か…」
「何でそこまでして入ろうとしてたの?誰か知り合い?」
「お客様の中ではお見かけしたことのない方ですね。」
「おいりせは、お前じゃないの?」
『はっ、俺かよ!?』
「………りせは君?あなた、やっぱりりせは君ね!?」
『えっ…?!』
それまで微動だにしなかった女性が突然喋り出す。
驚いている間もないまま、次の行動に俺は驚かざるを得なくなる。
「りせは君っ!逢いたかったぁーっ!!!」
『へっ、え、ちょっ…!?』
腕一つ分の距離しか離れていなかったとは言え、
唐突に目の前の女性に抱きしめられて、パニックになる。
"やっぱり"?
"逢いたかった"?
この人は、俺を知ってる?
俺は―――…この人を知ってる?
「なんだ、やっぱりりせはの知り合いか。」
『ちがっ―――!』
「りせはくーん!!ずっと探してたのよー!!!」
「昔の彼女…とかですかね?」
『違うっ!!』
「女っぽい面もあるかと思ってたけど…りせはも男だったんだな。」
『だからそうじゃないって!というか誰か助けろ!!』
女性は、ものすごい力で俺を抱きしめていた。
若干息をするのも苦しくて、相手が誰なのかもわからなくて、
それなのにメンバー全員楽しそうに眺めている。
この店は、そういう店である。
「はいはい、ちょーっと落ち着きましょうね。」
「ちょっ…!!」
『あんずさんっ!!』
あんずさんの仲介で、やっと解放される。
女性の体が俺から離れ、ようやくまともに呼吸ができた。
さっきから、何が何だかちっともわからない。
「ちょっと!何するのよ!!」
「お嬢様、ここで立ち話をいうのもなんですから、
あちらのテーブルでお話をいたしませんか?
美味しいケーキとコーヒーもお持ちいたしますので。」
「あら、気がきくじゃない。なかなか良いウェイターね。
いいわ、案内してちょうだい。」
「はい、かしこまりました。」
「ほらりせは君、行きましょ?」
『えっ?あ…はぁ………』
こういう点は、あんずさんはさすが大人だと思う。
さっきまでの女性の怒りをいとも簡単におさめてしまう。
俺にはとてもじゃないけど真似できない。
俺は相変わらず混乱した頭のまま、
女性に腕を絡め取られてなされるがままにテーブルへつく。
当然、場所は女性の隣だ。
お店の準備は新人たちに任せて、
オーナー、amu、俺、そして正体不明の女性でテーブルを囲む。
程なくして、あんずさんがテーブルへ飲み物を運んできた。
女性がコーヒーを飲んで落ち着いたところで、オーナーが話を切り出す。
「―――っ!!〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「まだ・・・・・・で・・・・・・から!!」
「―――ら・・・・・ってば!!」
まだ開店前の準備中の段階だった。
外から聞こえるのは、言い争うような声。
途切れ途切れの声から察するに、女の人とうちの新人たちのようだった。
『何だろ、喧嘩?』
「何かあったら困るし、見に行った方が良いか?」
「オーナー自ら動かないでください。危ないですから。」
「心配しなくてもぱんだがいるから多分大丈夫だって。」
中にいた全員の視線が、入口に集まった。
真っ先に飛び出ていこうとするオーナーをamuとあんずさんが制した。
時折、何かがドアに当たる音もしていた。
「―――してっ!!―――は―――のよっ!!」
「―――から・・・・・・を・・・して・・・・・・さい!!」
『・・・俺っ、気になるんでやっぱり見てきます!』
「あっ、おいりせは!!」
おさまる様子のない言い合いに我慢出来ず、
入り口に向かって駆けだした、その時だった。
「・・・だから退きなさいって言ってるのよ!!」
「おわっ!!」
『えっ―――!?』
突然お店の入り口のドアが開いて、
恐らくさっきまで口論していた女の人が店内に飛び込んできた。
進行方向上に突然現れた人影に思わず足を止めたものの間に合わず、
勢いよく飛び込んできた女の人が俺にぶつかる。
『うわっ!』
「キャッ!!」
よろけそうになったところを何とか根性でこらえて抱きとめる。
ここで倒れ込んだりしたら仮にも男と偽っているのにあまりにも軟弱だ。
そして女の人を追うように、入口で争っていた新人たちも入ってくる。
『っツ………』
「おい、大丈夫か?!」
「怪我はないですか?」
『…てて…いや、大丈夫。ちょっと衝撃で………っと。
お嬢さん、大丈夫ですか?怪我はありませんか?』
さすがにぶつかった衝撃はあれど、怪我はなさそうだ。
心配してくれたオーナーとあんずさんに無事を告げ、
俺の腕の中にいた女性の体を離しつつ様子を伺う。
特に目立った外傷はなさそうだ。
「・・・・・・・・」
『あの、お嬢さん…?』
「・・・・・・」
『えーと…聞こえてます?もしもーし?』
「・・・・・・」
女性は俺を見たまま動かない。
異常は特になさそうだけど、回答は返って来ない。
「打ちどころ悪かったとかじゃないよね?」
『いやそんなはずは………』
「さっきまであんなに元気に暴れてたんです。問題なくないですか?」
『それもそうなんだけど…あのー、もしもーし?』
見知らぬ人とはいえ、女性に怪我をさせるなんて
ホストとしてあってはならない話だ。
目の前で手を振ったりしてみるけれど、反応はない。
ただじっと、俺を見つめているだけだ。
見た目から判断して、20代半ば〜後半、といったところだろうか。
キレイな女の人だった。
手入れの行き届いたパーマのかかったふわふわとした髪。
大きな瞳に、長いまつげ、ピンク色に染まった頬。
すっと通った鼻すじに、柔らかそうな唇。
白い肌、細い手首、女性らしい丸みを帯びた体のライン。
微かに香ってくる甘いニオイのする香水。
自分の身が少し悲しくなるくらい、
どこをどうとっても完全なる「女の人」だった。
―――俺とは、正反対だ。
「なぁ…何が一体どうしたんだ?」
「いや、この女性が………なぁ?」
「あぁ………開店前だって言うのに、入るって聞かなくて。」
「開店時間内にまたお越し下さいって言っても無理矢理入ろうとして…」
「男3人を振り払うほどの力で、か…」
「何でそこまでして入ろうとしてたの?誰か知り合い?」
「お客様の中ではお見かけしたことのない方ですね。」
「おいりせは、お前じゃないの?」
『はっ、俺かよ!?』
「………りせは君?あなた、やっぱりりせは君ね!?」
『えっ…?!』
それまで微動だにしなかった女性が突然喋り出す。
驚いている間もないまま、次の行動に俺は驚かざるを得なくなる。
「りせは君っ!逢いたかったぁーっ!!!」
『へっ、え、ちょっ…!?』
腕一つ分の距離しか離れていなかったとは言え、
唐突に目の前の女性に抱きしめられて、パニックになる。
"やっぱり"?
"逢いたかった"?
この人は、俺を知ってる?
俺は―――…この人を知ってる?
「なんだ、やっぱりりせはの知り合いか。」
『ちがっ―――!』
「りせはくーん!!ずっと探してたのよー!!!」
「昔の彼女…とかですかね?」
『違うっ!!』
「女っぽい面もあるかと思ってたけど…りせはも男だったんだな。」
『だからそうじゃないって!というか誰か助けろ!!』
女性は、ものすごい力で俺を抱きしめていた。
若干息をするのも苦しくて、相手が誰なのかもわからなくて、
それなのにメンバー全員楽しそうに眺めている。
この店は、そういう店である。
「はいはい、ちょーっと落ち着きましょうね。」
「ちょっ…!!」
『あんずさんっ!!』
あんずさんの仲介で、やっと解放される。
女性の体が俺から離れ、ようやくまともに呼吸ができた。
さっきから、何が何だかちっともわからない。
「ちょっと!何するのよ!!」
「お嬢様、ここで立ち話をいうのもなんですから、
あちらのテーブルでお話をいたしませんか?
美味しいケーキとコーヒーもお持ちいたしますので。」
「あら、気がきくじゃない。なかなか良いウェイターね。
いいわ、案内してちょうだい。」
「はい、かしこまりました。」
「ほらりせは君、行きましょ?」
『えっ?あ…はぁ………』
こういう点は、あんずさんはさすが大人だと思う。
さっきまでの女性の怒りをいとも簡単におさめてしまう。
俺にはとてもじゃないけど真似できない。
俺は相変わらず混乱した頭のまま、
女性に腕を絡め取られてなされるがままにテーブルへつく。
当然、場所は女性の隣だ。
お店の準備は新人たちに任せて、
オーナー、amu、俺、そして正体不明の女性でテーブルを囲む。
程なくして、あんずさんがテーブルへ飲み物を運んできた。
女性がコーヒーを飲んで落ち着いたところで、オーナーが話を切り出す。