二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひわひわのお話。2

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

嬉しくて、思わず女性の手を取ってぶんぶんと振ってしまった。
さっきの彼女のハグや腕組みほどではなかったと思ったけれど、
嬉しすぎて力の加減がわからなかったのか、
女性は俺の手を振りほどくと軽く両手首をさすっていた。

―――女性の頬が若干赤く見えたのは、気のせいだろうか?



「………全くもう…これだから庶民は嫌なのよ!
 気分が悪いから帰るわ!!」

「お送り致します、こちらです。」



さっとあんずさんが動き、出口へと案内する。
俺は暫くボーっとその様子を眺めていたけれど、
我に返って慌ててドアに向かう2人を追いかけていく。



「ありがとうございました。
 お気を付けておかえりくださ―――…」

『ちょっと待った!!』



俺の声に、ドアを開けていた女性の手が止まる。
支えを失ったドアはそのまままた閉まり、
そして女性が俺の方に振り向く。



「何?今更OKしたって遅いわよ?」

『違うんです!あの、そうじゃなくって!!』

「何よ?早くしてちょうだい。」

『あの………良かったら、また今度、お店に来てくれませんか?』

「え………?」



女性が驚いて目を丸くする。
まるで、俺の言ってる言葉が理解出来ていないかのようだった。



「来るって?私が?ここに?」

『はい!俺、待ってますから!!』

「じょっ…冗談じゃないわよ!どうして私がこんなところに…!!」

『これも何かの縁なんで、どうかなと思って。
 さっきお貸ししたハンカチ、返しに来るだけでも良いですから。』

「………」

『ね?』

「………き、気が向いたら来てあげなくもないわ!」

『はい、是非!!』



満面の笑みで俺が返すと、
女性は少しだけ頬を赤くして俯いた。

照れ隠しかのように、乱暴にドアを開け、
最後に一瞬だけこっちを振り向いて、そして足早に去って行った。



「ふう………行きましたか。」



気付けば、オーナーとamuも近くに来ていた。
女性が去ると同時に、全員大きくため息をついた。
まだ開店前だというのに、みんなかなりやつれてしまっている。



「りせは、何でお前店に誘ったわけ?バカ?
 こんなことがあったんだ、来るわけないだろ。」

『うるさいな、バカじゃない!!
 ………でも、あの人、多分来てくれると思うよ。』

「どうしてだ?」

『最後に俺の方チラッと見た時。
 あの時、"ごめんなさい"って言ってたように見えたんだ。
 だから………多分、ううん、きっと、来てくれると思う。』

「ほう…」

「へーえ…」



みんなの視線が、もういないドアの方を向いていた。
俺の見間違いでなければ、きっとそうだ。
確信というよりは願望に近いけれど、出来ればそう信じたい。



「りせはーっ!!」

『わっ、タヌ!?お前っ、今までどこいたんだよ?!』

「ふめめー、なんか怖そうだったから、隠れてたんだもっ!!」

「ほう…ナマモノの分際で影でこそこそ盗み聞きとはいい度胸ですね………」

「タヌはナマモノじゃないもっ!
 それに盗み聞きじゃないも!勝手に聞こえて来たんだも!!」

「そんなのどっちでも構いません。ナマモノは滅するのみ!」

「ふめーっ!!」



どこから取り出したのか、
あんずさんが片手に塩の袋を持って狙いを定めた。
タヌとあんずさんとの間には火花が散り、完全な臨戦態勢だ。



「おいおい、開店前の店内、汚さないでくれよ。」

『…ってオーナー!時間やばいですよ時間!
 早く準備しないとお客さん来ちゃいますよ!!』

「うわ、やっべ!あんずさん!争ってる場合じゃないですよ!!」

「チッ…ナマモノめ………生き永らえたか………」

「もっもっ」

「よし、じゃあさっさと準備にかかろう。
 お嬢様方を待たせるわけにはいかないからな。」

「ふぇーい。」

『ちょっ…と待った!!』

「ん?」

「何だよ?」



全員の目線が俺に向かう。
少しだけ気恥ずかしかったけれど、勇気を振り絞って前を向く。



『えっと…今日は沢山迷惑かけてごめんなさい!
 それと、その…みんなの気持ち、すっげー嬉しかった!!
 俺、もっともっと頑張るから、だから、その………
 これからも、よろしくお願いしますっ!!』



深々と頭を下げる。

みんなの気持ちが、言葉が、本当に嬉しかったから。
これだけじゃ足りないのはわかってるけど、
これが今の俺にできる精いっぱいだったから。
だから、今の気持ちを全部込めて、礼をした。



「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」



誰も、何も言ってくれなくて。
みんな、本当は怒っていたんじゃないかと不安になる。

沈黙が怖くて頭を上げようとした瞬間、
ふわっとした手が順番に俺の頭を撫でた。









「そういう時は、"ありがとう"って言うんだぜ」

「ほらほら、早く準備しないとどんどん差が広がるぜ、"No.2"君?」

「お嬢様方を待たせるわけにはいきませんからね、急いで下さい。
 あなたはうちの店の大事なホストなんですから。」









顔を上げると、全員何もなかったかのように
既に準備に向けて散り散りになっていた。

直接言葉にしなくても、
触れた手のひらからみんなの気持ちが伝わってきた気がした。
すごく温かくて、優しい気持ちだ。



『―――ッ…』



嬉しくて、でも、言葉に出来ない。
思わず目頭が熱くなる。


涙が零れないように必死に堪えていると、
ふと足元が温かいのに気付く。
下を見ると、タヌが俺の足元にまとわりついていた。



「あのね、あのね、タヌね、りせはのことだーいすきだも!」



そう行って、タヌもどこかへ走り去って行く。
どうしてみんな、ちゃんとお礼を言わせてくれないのだろうかと思って、
でもこれはこれでうちの店らしいな、とも思う。









『ありがとう。』









誰にも聞こえないように小さく呟いて、
そして、もう一度深々と頭を下げた。

いつまでいられるかはわからない。
いつ女だとバレてしまうかもわからない。

―――だけど、いつか「その日」が来るまでは。

それまでは、ここで、みんなと一緒にいたい。



『よっし、今日も頑張るぞー!!』



大きく伸びをして、そして俺も準備に駆けだした。
作品名:ひわひわのお話。2 作家名:ユエ