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くろいろリザードン

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「……飛んでいきたいところだけど、飛んだら撃ち落とされそうだしな」
呟きながら少女は休火山を登っていた。
休火山とはされているが、もしかしたら何時か、噴火するかも知れないと聞いている。そうなれば麓の街もこの島も終わりだ。
空は晴れていて、雨が降るような気配もない。
少女は十代前半ほどの年齢で、スニーカーを履いていてパーカーを羽織り、腰にはモンスターボールが五つ着いた
ボールベルトを巻いていた。
『コーン』
「……カズナリは元気だなぁ……」
少女から少し離れた前の方には銀色のきつねポケモン、キュウコンが居た。
キュウコンとは通常、金色をしているがカズナリは色違いのポケモンであったために通常のキュウコンとは色が違う。
この世界にはポケットモンスター、縮めてポケモンという不思議な生き物たちが居て人々は助け合ったり、
ポケモンを戦わせ合ったり、仕事を手伝って貰ったりしながら、日々を生きている。
気が抜けたように彼女は呟くが足取りは疲れたようには感じられない。
少女が山登りをしているのは、理由があった。キュウコンが足を止め、警戒するように九本の尾を揺らす。
威嚇の理由は少女の耳にも聞こえた咆吼にあった。
「リザードン。それも色違いらしいけど、山に降りてきて、暴れて……今に至ると」
麓のジムに用事があり少女が島に辿り着いたのは朝のことである。
ジムリーダーに会いに来たのだが留守であり、ジムのトレーナーが困っていた。話を聞いてみると休火山の頂上にリザードンが
住み着いたらしい。休火山はほのおタイプのポケモンやいわタイプのポケモンが揃っているのだが、リザードンが住み着いてからは
頂上に近づけなくなったという。人間を憎んでいるのか、ポケモントレーナーもトレーナーではない者も関係なく
攻撃してくるのだ。街のトラブルを収めるのはジムリーダーの役目ではあるのだが、ポケモンリーグの方に会議で
出かけていて不在であり、帰ってくるまで時間がかかるという。
島に居るポケモントレーナーが全員返り討ちに遭ってしまったのでたまたま来た少女に捕獲依頼が来たのだ。
行く前にポケモンレンジャーは? と聴いた少女だがスタイラーを壊されてしまったという。
山を八割ほど登りながら少女はリザードンを捕獲する方法を考える。
左手で赤い横開きのポケモン図鑑を取り出して開いてリザードンのデーターをチェックする。
かえんポケモン、リザードン。
誇り高いポケモンであり、攻撃力も高い。背中の翼で地上千四百メートルまで飛べる。好戦的であり、戦いを求めている。
ぎりぎりのところで少女は止まる。カズナリを手で制した。
思考に入る。すぐに作戦を決めてから言った。
「カズナリ、戻ってて。最初は……」



黒色のリザードンは空に向かって吠えていた。
育てられはしたものの、自分を育てたポケモントレーナーは見当違いの命令ばかりを出して勝てそうな勝負だって、
負けてしまったり、そのことを自分のせいにされたりした。怒り、トレーナーを倒してモンスターボールを壊して飛び出した。
着いたところは山であり、そこでも負け無しだ。
何人かのポケモントレーナーや妙な機械を持った人間も来たが、全員追い払っている。どんなポケモンが来ようが負けはしないという
自負が彼にはあった。
羽音が聞こえる。
リザードンが空を見上げると、一匹のふくろうポケモン、ヨルノズクが飛んできていた。リザードンの眼を見つめ、
羽根を揺らし『さいみんじゅつ』を仕掛けてくる。
『さいみんじゅつ』はかかってしまうと、眠ってしまう技だ。眠ってしまえば相手のポケモンに一方的に攻撃を受けてしまう。
リザードンは気合いで『さいみんじゅつ』を押しのけ、ヨルノズクを睨むと口から『かえんほうしゃ』を吐いた。
ヨルノズクが『かえんほうしゃ』の炎に包まれる。飛んでいたヨルノズクは地面に叩きつけられ、火傷を負っていた。
もう一度、『さいみんじゅつ』をかけようとするヨルノズクにリザードンはトドメの『かえんほうしゃ』を放つ。
炎はヨルノズクに一気に発射されたが、届かない。
庇うように躍り出た銀色が『かえんほうしゃ』の炎を受け止めたのだ。真っ赤な炎に橙色が混じっていき、銀色が橙色を纏う。
『ホー……』
 弱々しく鳴くヨルノズクの声が聞こえる。リザードンの前には銀色のキュウコンが現れていた。
 リザードンの知るキュウコンは金色であるのにこのキュウコンは銀色だ。
 橙色と赤色が混ざった炎を纏ったキュウコンは不適にリザードンに笑いかけた。
 ─────────そんな炎、オレには効かないよ! と自信満々に眼で言っている。
 挑発されたリザードンはもう一度炎を放つが、銀色のキュウコンには効かない。
 銀色のキュウコンの特性……ポケモンそれぞれが持つ特徴のことを言う……は『もらいび』だ。
 『もらいび』は炎タイプの攻撃を受けてもダメージや効果を受けない上に自分の炎技が1,5倍に跳ね上がる。
 ゆらゆらと揺れる九本の尻尾に纏った炎と合わせて自分の口から『かえんほうしゃ』が放たれた。
 リザードンは怯むことなく立っているが視界が橙と赤に埋め尽くされる。
「カズナリ、壁になってくれてありがとう。ホーコごめんね。回復は後で、クロコ、『なみのり』よろしく!」
 その声が聞こえたと同時に炎を総て消し去ってしまうような蒼色がリザードンを呑み込んだ。
 リザードンは波に押し流されて後ずさる。視界が晴れた時に居たのは銀色のキュウコンとヨルノズクではない。
 ポケモントレーナーらしいパーカーを着た少女と、あわはきポケモン、シャワーズだ。
 人魚のような尻尾を持つ水色の体躯のポケモンだ。
 みずタイプの技はほのおタイプのポケモンには非常に良く効く。逆にほのお技はみずタイプのポケモンには効きづらい。
 効きづらいことを判断したリザードンではあるが逃げることはしなかった。
 尾に灯っている炎が青白く燃え上がる。リザードンは翼で空を飛んだ。
『……シャワ……』
 クロコとシャワーズは呼ばれていた。声に警戒が含まれているが、逃げることをしない。リザードンは滑空し、
翼でクロコを撃とうとしたがクロコはリザードンに向かい、『れいとうビーム』を放った。
 『れいとうビーム』はこおりタイプの技であり、ほのおタイプであるリザードンには効きにくいようにも想われるが、
ひこうタイプも持っているリザードンにはひこうタイプにはこおりタイプが強いこともあり、ダメージは通常で効く。
 リザードンは『かえんほうしゃ』で対抗する。クロコは『れいとうビーム』を放ち続けたが徐々に押されていく。
 炎の方が勝っているのだ。
 このままクロコに炎を届かせようとリザードンは吐く炎を強くしたが、ふいに、力が弱まった。
 眠気が来たのだ。リザードンの瞼が重くなる。眠気に抵抗しようとしたがリザードンは出来ずに眠る。
 クロコの『れいとうビーム』が止むと同時に地面にリザードンは落ちた。
 落ちたリザードンが最後に感じたのは地面に叩きつけられる感触と動体に当たる抉れるような痛みだった。
作品名:くろいろリザードン 作家名:高月翡翠