くろいろリザードン
それがハイパーボールが当たった痛みだとリザードンが気づく前にリザードンは意識を落とした。
千二百円が揺れている。
お金そのものが揺れているのではなく、千二百円のハイパーボールが揺れているのだ。リザードンを入れたハイパーボールは
何度も揺れて止まる。
「リザードン、捕獲完了。お疲れ様。ホーコにカズナリにクロコにシンちゃん」
『バナ』
女の子がハイパーボールを拾い上げた。ボールの中に戻っているポケモン達をねぎらい、側に居るクロコをねぎらい、
そしてリザードンの背後に居たたねポケモン、フシギバナのシンちゃんをねぎらった。
シンちゃんが『ねむりごな』をクロコがリザードンの意識を引きつけている間に撒いたのでリザードンは眠ったのだ。
最初は『せんせいのツメ』を持たせたホーコを切り込ませたが、反撃を食らった。
鞄から『やけどなおし』と『すごいきずぐすり』をホーコに使っておく。
「捕獲、終わったんだ。俺の援護はいらなかったみたいだね」
空から声がした。
シンちゃんやクロコ、女の子は声の主を知っている。右腕をかせきポケモン、プテラの足に食い込ませていたのは金髪の長髪を
シュシュで束ねた青年だった。着地する。着地すると青年の腰に巻いてあるボールベルトのモンスターボールから
勝手にポケモンが現れた。現れたポケモンは一息ついていたクロコに飛びかかる。
『ワンッ!』
───────大丈夫ッスか!? クロコっち! と飛びかかろうとしたのはでんせつポケモン、ウインディのリョウタだ。
リョウタはクロコにとても懐いている。飛びかかる前にシンちゃんが伸ばしたツルにリョウタは絡め取られた。
バサリ、とプテラが翼を一振りすると地面からリョウタに突き刺さろうとするように尖った岩が伸びてきた。
ツルに動きを封じられながらもリョウタは必死でジャンプして当たらないようにしている。
反省するようにリョウタが鳴くとシンちゃんはツルを解いた。クロコのすぐ側にリョウタは寄る。
「リョウタへのツッコミをありがとう。カサマツさん……バトルの時は言うこと聴く癖にクロコに対しては……」
「ガーディの時代から懐いていたよね……リザードンか。上手く捕獲は出来たけど……」
青年はプテラ、カサマツをねぎらう。さん付けをされているのは飛行要員として大いに貢献してくれているからだ。
リザードンが入ったボールを女の子は眺める。眠った状態のリザードンを他のポケモン達と共にポケモンセンターに
連れていってからが問題だ。
言うことを聴かせなければならないのだが、リザードンは手なずけるのが難しいのと、このリザードンはポケモントレーナーを
ろくなものだとは想っていない。
『バナ』
「永久に寝かせておいて、ボックスに入れっぱなしにしておけ……? それは最終手段」
シンちゃんの意見を女の子は読み取る。
ポケモンは規則で六匹までしか持てずに七匹目以降はパソコン内のポケモンボックスに自動転送される。
ほのおタイプとくさタイプが相性が悪い、くさタイプの方が弱いということを抜きにしても、シンちゃんはリザードンが
気にくわなかった。自分が一番強いと想っているところがだ。青年が連れているポケモンにも一匹そう言うのが居るが、
今は青年は持っていないらしい。そいつと似たような気配を感じた。
「俺が手なずけようか? カサマツさんのエッジがあるし」
『バナ』
─────────お前、容赦がないのだよ。とシンちゃんは青年に言う。
カサマツさんのエッジ……正確に言うとカサマツさんの『ストーンエッジ』となるが『ストーンエッジ』とはいわタイプの技で
尖った岩を相手にぶつける技だ。リザードンのタイプはほのおとひこうであり、いわはどちらの弱点でもある。
弱点のタイプは通常の二倍ダメージなので二倍の二条で四倍、さらにカサマツはいわとひこうタイプであり、
自分の持っているタイプと技のタイプを一致させて使うと、1,5倍のダメージが当たるため、合計で六倍ダメージとなる。
「エッジは命中率がたまに不安だけど……」
時には殴り合いも大事だよねと言うのが青年や女の子の見解だ。褒めてばかりじゃ駄目だ、怒るのも大事だというものらしい。
カサマツは案外容赦がない。主に忠実だ。
『シャワ』
二人が話しているとクロコが前に出た。女の子を見上げて鳴く。
────────彼はボクが面倒を見ます。マスター、それは最終手段一歩手前にしてください。と訴えた。
「クロコなら相性も良いし……一緒にタイガを手なずけようか」
「タイガ……? リザードンの名前……君のネーミングセンスって……ま、良いけど……」
『ワンッ!』
リザードンにはタイガと名付けられた。
青年は微妙そうな表情をしながらもすぐに打ち消す。リョウタが勢いよく女の子が持っているハイパーボールを咥えようと
していた。決定が気に入らなかったらしいがすぐにカサマツが『ストーンエッジ』をリョウタにだけ当てるように調節して発動させる。
リョウタは離れた。
「シン。眠らせたのがお前だと分かるとタイガが攻撃してきそうだから気をつけなよ。君はほのおもひこうも弱い」
『コーン』
リョウタをモンスターボールに戻しながら青年が注意するとしまわれていたカズナリが現れた。
自分が着いているから平気という風に鳴くのでシンちゃんは疲れたように目を伏せた。嬉しそうな複雑そうな表情だ。
「寝てるけどよろしくね。タイガ」
また仲間が増えた。騒がしさが増えて、迷惑も増えるだろうが、悪くはない。
ポケモンと人間の付き合いというのは簡単なようで一筋縄ではいかないこともあるけれど、お互いが幸せになれるように
逢えて良かったという想いを共有するものではあるのだ。
【Fin】
おまけ
「君さ、クロコ、ホーコ、シン、カズナリ、タイガで五匹だけど残り一匹は?」
「ノコッチのツッチー、マスコットに連れてきたんだよ。実は強い……」
「コンボが決まればの話だけどね」