大宮サンセット(仮)
冷たく静謐で何事にも動じないと思っていた幼馴染の変化を、ケイスケはしかし、好ましく思っていた。言うことに詰まって手が出るのは、言葉で表しにくい様々な新しい感情がアキラの中に日々生じていることの表れであるから。毎日のぎこちないやりとりも、この痛みも、すべて人間であることの証だった。これらがこの先も変わらずに続けられ、やがて自分たちにとっての日常になることを、ケイスケは願った。
アキラの顔がどんな色を浮かべているか今のケイスケには見えない。かわりにそのうしろ、彼方の建物群のなかに沈まんとしている夕陽の、大きく丸くふちどられた朱色が見えた。今にもにじみ、溶けて、夜に染められていこうとする赤の、最後の輝き。
「…お前、なんて顔してるんだよ」
あきれたようにつぶやく彼もまた自分と同じように笑っているのだった。やがて夕陽が沈みきり自分の眼が慣れれば、その顔ももっとはっきりと見られるようになる。もう少ししたら立ち上がって部屋に帰ろう。思ったより遅くなってしまったけれど、今からでも充分食べられる味のものを作れるだろう。明日もきっと晴れるから、暑くなるのは必至だ。
力の抜けた体を座りこませたまま、ケイスケは笑顔を浮かべた。
空の高いところにはもう、輝き始めの星が一つ二つ、点々と散らばっていた。
作品名:大宮サンセット(仮) 作家名:すみびすみ