N・N・N
「……パイ、センパイってば!」
強い力で肩を揺すられ、トグサは勢いよく目を見開いた。反射的に身を起こし、辺りを見渡す。そこは見慣れた9課のバンの中だった。目の前にはトグサを怪訝そうに見下ろすアズマ、少しだけ離れた所に、アズマと同じような顔でトグサを見ているバトーがいる。一頻り周囲の状況を確認し、トグサは大きく息を吐いた。
「なんだ、夢か……」
段々と記憶が戻ってくる。トグサは現在、バトーとアズマと3人で、今回のターゲットの監視している最中であった。今夜はこのままバンの中で監視続行ということになり、サイボーグの二人に一時的に監視を任せ、自分は仮眠を取っていたのだが、そこでどうやら、あんな妙な夢を見てしまったのだろう。
「センパイ、どうしたのよ? かなりうなされてたけど」
「なんでもない……ちょっと、嫌な夢を見ただけだ」
寝たはずなのに、ひどく疲れた気分になりながら、トグサはアズマへひらひらと手を振った。それから再び溜息を吐く。アズマはトグサの言葉に興味を覚えたようで、自分の席に戻る事もせず、にまにまと楽しげにトグサに尋ねた。
「どんな夢?」
「……そこの大先輩やイシカワが、頭にそれはそれは立派な猫耳やら犬耳やらをつけてるっていう最悪の夢だよ」
「…………うえっ」
「おいトグサ」
投げやりな口調でトグサが応えると、想像したのだろうアズマが心底気持ち悪そうにえづき、聞き咎めたバトーがやはり心底嫌そうな顔でトグサを見やった。トグサはそのどちらに対しても返事をせずに、アズマを本人の席の方へと押しやると、椅子に座り直してモニターへと視線をやり、任務に集中する事でとにかくその夢を忘れることに務めたのであった。