時を刻む唄
逃げ去る女の子達の完敗宣言は心地よかった。
★☆★☆★
そして、お昼の自由時間。
「なぁ帝人、何で俺だけ?」
屋上で、何時もの通りに三人でお弁当を頬張るが、帝人と杏里はゆったりベンチに腰を降ろしているのに、彼だけはコンクリート剥き出しの床に正座を強いられていた。
おかかお握りに玉子焼きのみの、とても質素な昼食だったけど、抜きにしなかっただけ褒めて欲しい。
「責任取っていただきます」
お握りを頬張りつつ、ずいっとさっきの虐め画像を彼の眼前に突きつけてやると、見終わった彼も、見る見る目を吊り上げ、怒気を漲らせた。
「判った。こいつらシめればいいんだな?」
「違う。元は正臣が原因なんだからね。中の内の一人は、君がナンパして落とした娘でしょ?」
「そうだっけ。忘れた」
瞬間、帝人の拳骨が唸り、彼の脳天に直撃する。
「いってー!! 何すんだ!!」
「脳味噌に刺激与えれば、思い出すかもって?」
「暴力反対!! 帝人のドS!!」
「煩い、真性マゾ!!」
そもそもこいつが学校中の目ぼしい女の子に、手当たり次第交際を申し込んだ時、本気で付き合いを考えた奇特な女の子が7人もいたのだ。超迷惑である。
その話は7股がバレた時点でノリと冗談で誤魔化され、済し崩しで無かった事にされているが、そんな応急処置で年頃の少女達が納得できる筈無かった。
正臣は腕っ節も強いし、見てくれも良いし、明るくて面白いから人気者なので、来良の1年男子の中で、帝人の贔屓目無しでトップ5に入る優良物件である。
その彼が今、唯一べったりくっついているのが園原杏里なのだ。
妬みと嫉妬が、彼女に向かったって、ちっとも不思議ではない。
「兎に角、正臣がしでかした事で、迷惑がかかってるんだから、きっちり園原さんを守ってね。でないと僕、ぷっつん来て、何をやらかすかわからないから」
家から持参した水筒で、麦茶を正臣のカップに注いでやる。
自分もずずっと音を立てて熱い液体を啜っていると、けたたましいサイレン音が響いてきた。
屋上から見下ろせば、駐車場に乗り付けたワゴンから、青い作業服を身に纏った警察官が、畳んだダンボールを手にし、列をなして校内へとぞろぞろ吸い込まれていく。
何だ何だとフェンスに駆け寄り、慌て騒ぐ来良の生徒達の群れの中、一人、熱い麦茶を啜る帝人のみが平然としていた。
紀田の顔がみるみる青ざめ、唇の端が引きつっていく。
「……おい帝人、お前、那須島に何やった?……」
「どうせあんな変態、パソコンにエロ動画を大量に抱え込んでいるんだろうなって思ってさ、遠隔操作でちょいちょいウイルスに感染させた。で、奴が発信源になって、共有ソフトでさ、来良学園の女子高生の盗撮の画像と、児童ポルノの規制に引っかかりそうな画像を盛大にネット上に拡散して貰いました」
あっという間に警察が特定してとっ捕まえてくれると思ったけど、まさかこんなに早く来てくれるとは、びっくりだ。
警察が職員室にあったパソコンを、次々押収し、運び出して行く姿を目にしても、帝人は全く動じず、黙々とお握りを頬張り続ける。
捕まるようなヘマはしてないし、那須島のパソコン内にあった物は元々彼の私物、咎は彼にある。
それに、一度は見逃してやったのに、再び杏里に盗撮しかけようとして、帝人の逆鱗に触れた彼が全面的に悪い。
「という訳で正臣。正臣の手に余るようなら、僕が動くけど?」
「いや、誠心誠意、女達説得してくるから。俺、頑張るから。超頑張るから。頼むからお前は何もするなぁぁぁ!!」
「竜ヶ峰君。私も、穏便が良いと思います!!」
数日後、那須島高志は自宅謹慎1ヶ月という罰則に決まった。やっぱり有力なコネがある奴はしぶとかった。
そして正臣の頑張りが効いたのか、あの日依頼、杏里を虐める女子生徒も激減し、帝人は三人での学園生活を、心底楽しむ事ができた。
杏里が突如失踪するまで。
Fin.