めかくしセカイ
これがもし、あの猫の名前の由来になったきり丸が相手だったらまだ良いのだ。あくまで記憶を共有するだけに留まるならば、むしろ積極的に会って話してみたいとも思う。
だが、利吉は駄目だ。もしこのまま共にいれば、自分の思いがばれないとも限らないし、下手をすれば利吉を自分と同じ境遇――すなわち、男に惚れるという、茨の道へと誘ってしまう可能性すらある。あの夢の中のように一部階級では男色がそれなりに市民権を得ている時代ならともかく、現代において男同士の恋愛が社会に暖かく迎え入れられてもらえないのは確かなことだ。既に自分は利吉を好いてしまったとはいえ、彼まで引きずりこんではいけない。きっかけは自分の好奇心だったのだから。やはり夢の頻度が上がった段階で、すっぱりと行くことを止めておけばよかった。いまさらながら後悔の気持ちを覚えるが、後の祭りというやつである。半助が今できるのは、状況をこれ以上進ませず、蓋を閉じる事だけだ。
「喫茶店も行かない。利吉くんにも、会わない」
決意が鈍らぬよう、声に出し、自分へと言い聞かせる。その傍らで、利吉に会いたいと思う気持ちを綺麗に封じ込め、心の奥へと仕舞い込んだ。