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ロクヨンゴ
ロクヨンゴ
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幸せの姿(第4回)

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外の庭園は春の盛りの午後の日差しで明るく、対する室内は影が濃い。
「『赭』って鉄の化合物の色のことだから、ここでは『金』の意味で使われてるんじゃないかな」
「そうすると後の文章の意味がつながりませんよ? 赤土の色という意味の方がよく知られてますし、私は『土』の意味で使われてるんだと思います」
「うーん、五行の考え方だと土生金、だから元々性質が似てるんだよね」
「白熱してるねえお二人さん」
いつものようにアルフォンスの部屋で机を挟んで議論していた二人は不意に窓の外から声をかけられて顔を上げた。
「御身自ら何の御用でしょうか皇帝陛下」
行儀悪く窓を乗り越えひょいと入ってくる声の主にメイがやや硬い声音で聞き返す。
「アルフォンスにアメストリスのホークアイ中尉殿からお荷物だよ」
指名されたアルフォンスがわあ、と歓声を上げ笑顔全開で立ち上がった。
リンの後ろのランファンから窓越しに荷物を受け取り、見た目から予想した以上の重さにびっくりしつつさっきまで座っていた椅子の上に降ろす。
「アルフォンス、アメストリスがどうしたって?」
「と、陛下」
声を聞きつけて続き間になっている自分たちの部屋からそれぞれ顔を出したジェルソとザンパノがさっと姿勢を正す。
「ここで堅苦しいのなしな、なし」
苦笑しながら指示したリンが木箱の蓋を開けたアルフォンスにすり寄った。
「で、中尉殿はいったい何を送ってきたんだい」
「多分僕の服だと思いますけど」
茶色い厚紙でくるまれた中身の上にちょこんと乗っている分厚い封筒から白1通、ピンク2通の封筒を取り出しそれぞれの宛名を確認した彼はピンクの一通をメイに差し出す。
「はい、ウィンリィからメイにだよ」
「本当ですか!?」
アルフォンスの勧めで手紙を書いたものの、返事がもらえるとは思っていなかったメイは声を弾ませ封筒を受け取った。
「で、アルフォンスにはホークアイ中尉とウィンリィちゃんの両方からお手紙? いいねぇ」
「そんなことないですってば」
残りの封筒の宛名を見たリンにからかわれてやや赤くなったアルフォンスがピンクの封筒をベストの内ポケットにしまう。
「つかなんで幼なじみちゃんじゃなくてホークアイ中尉がアルに服送ってくんだ」
「話してたらそういうことになっちゃって」
「ほー、いつのまに」
「で、ホークアイ中尉殿からのお手紙の御用事なーにー?」
「私も知りたいです」
揃って好奇心に目をきらきらさせる一同から少し距離を取ってアルフォンスは白い封筒を開け、目を通した。
「シンでは本当にお世話になりました。皇帝陛下とメイ皇女様にお礼をお伝えしてください。こっちに帰ってから早速ウィンリィさんとピナコさんに連絡してアルフォンス君の様子をお話ししたらすごく喜ばれてました。できるだけ手紙出してあげてね」
「えーそんだけー?」
「あと、ハボック中尉のご実家と取引してるお店に少し衣類を置いてもらえることになったので、そっちも利用してくださいねって、…と、荷物の中にジェルソさんとザンパノさんの服も1枚ずつだけど入れてます、サイズが合わなかったらごめんなさい、だって」
その言葉に、どうせ俺らには服を送ってくれるような相手はいませんよーと内心いじけかけていた二人がおお、と声をあげる。
「ホークアイ中尉、優しいなあ」
「ありがたいねえ」
早速二人の分を渡そうとごそごそと荷を探っていたアルフォンスは真新しいシャツやズボンの下に見覚えのある柄を見つけて目を見張った。引っ張り出して広げて確認する。
「これ、僕が家に置いてきたTシャツだ。こっちも」
アメストリス軍一行が帰国してから今日でちょうど2週間。大砂漠越え最短ルートは順調に行って5日かかるから、向こうに戻ってすぐウィンリィに連絡を取り服を取り寄せその他の荷物を揃えて発送してくれた計算になる。
「仕事早いな」
「ん、『鷹の目』殿の優秀さは軍で噂に聞いちゃいたが、さすがだよなあ」
「俺も仕事早くて信頼できる臣下が欲しい…」
ため息をついてしみじみとつぶやくリンにまあまあ、とアルフォンスが肩をたたく。
「ランファンさんがいるじゃないですか」
「ランファンは臣下じゃない。…で、まだ下になんか入ってるみたいだけど」
指摘されて木箱の底の方に手を突っ込んだアルフォンスが取りだしたのは、数種類の缶詰と菓子類の袋。
「わ、このビスケット昔よく食べてたっけ」
「おお懐かしのコンビーフ。炒めて食うと酒のつまみにいいんだよな」
「でもビールはさすがに入ってないよなあ」
「当たり前ですよ、もう」
「さすがに砂漠越えじゃ味変わっちまうだろ」
仲良く盛り上がるアルフォンスたちに取り残された形のメイがそーっと輪から離れてため息をつく。
それをさらに外側から見ていた主従は無言で視線を交わして苦笑した。



外の月が雲に隠れたのか、室内がすっと暗くなる。
ほどいた髪を丁寧に梳き終わったメイは櫛を布で拭いて包んで仕舞い、寝台の横の小机にランプとアルフォンスから借りたアメストリス語の辞書を置いた。
文箱から取りだしたピンク色の封筒を丁寧に開封して、三つ折りの便箋を慎重に開く。


「メイさんへ

 お手紙ありがとう! 
 リザさんからもらったときはびっくりしたけど、すごく嬉しい。
 私のこと覚えててくれたんだ。感激です。

 お元気ですか? 
 リン(今は皇帝陛下って呼ばなきゃいけないのかな?)の話は
 時々ラジオで聞くんだけど、
 メイさんやランファンさんのことは分からないんでずっと心配してました。
 アルとは仲良くしてる?
 もしかしてもう告白しちゃったりなんかしてたりー♪」


久しぶりのアメストリス語に少しつまずきながら、そこまで読んで思わず赤くなる。
アルフォンスの幼なじみであるウィンリィとの間にはおたがいの恋心を打ち明けて話せるくらいの友情を築いている。
かつての北国での逃避行の間に、とにかくアルフォンスのことを何でもいいから知りたくて、彼について話したくて、自分たち一行から距離を置いていた彼女に勇気を振り絞って話し掛けて。
両親の敵の男の仲間な自分に打ち解けてくれるまでは少し時間がかかったけど、親しくなってからは本当にいろんなことを聞いたし、話した。
それまで周りにいたのは異母姉妹か年の離れた女官、侍女たちで、とても何かの秘密を打ち明けられるような相手ではなく、同年代の少女と何のしがらみもなく仲良くできたのは初めてだったから本当に嬉しく、楽しくて。
なつかしく思い出しながら続きに目を通して、どきっとした。


「アルって昔から女の子にすごくモテるから、
 しっかりつかまえとかなきゃだめだよ?
 もちろん私はメイさんの味方。がんばれー!」


容赦ない指摘にため息をつく。
皇族たちが住む北宮の管理は本来正妃の役目なのだが、現皇帝が未婚のためなしくずしにメイに任された状態なので…女官や侍女たちの一部が「誰がアルフォンス様のお部屋にお食事を運ぶか」「誰がアルフォンス様の御用事を済ませるか」などについて火花を散らしているということは聞かされている。
本当はアルフォンスに関することなら自分が一から十まで仕切ってしまいたいけど、さすがにそうするにはいろいろ忙しすぎて、
作品名:幸せの姿(第4回) 作家名:ロクヨンゴ