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ロクヨンゴ
ロクヨンゴ
novelistID. 11550
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幸せの姿(第4回)

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でもあわよくば皇帝のお手つきねらいのため美女揃いの女官、侍女たちがあの手この手でアルフォンスの気を引こうとする事実にはやっぱり心中穏やかではいられない。
そして彼がまた誰にでも分け隔てなく優しいのがこう、なんとも、おもしろくない。
それが彼の長所だとは分かっているけど。
…分かってる。アメストリスのころのように好き好き大好きと訴えて強引に自分に注目させればそれでいいわけじゃない。それじゃ他の女性たちと何も変わらない。
でもアルフォンスは自分の気持ちを十分知ってるはずなのに、優しくてあくまで礼儀正しい態度は他の女性に対するときと全く同じで。
錬丹術の勉強とかお茶の時間とかで一番長い時間一緒に過ごしているのは自分だし、多分嫌われてはいないはずだけど、もう「好き」ということは伝えてしまっているから、今以上の関係になるには何をどうすればいいのか分からなくて。
ぎゅっとこみ上げてきた切なさをごまかすように便箋をめくった。


「そう言えば、アルはずっと鎧だったせいで忘れてるかも知れないけど、
 小さいときは気管支が弱かったから
 夏風邪とか引かないようにくれぐれも注意しといてくれ、って
 ピナコばっちゃんからの伝言です。
 アル本人に言っても多分こっそり夜更かしとかしちゃうから、
 メイさんが気を付けてあげてください」


そこに書かれていたのは、まだ自分が知らない彼の姿。
ちくりと胸が痛んだ。
アルフォンスではなく、彼の兄のことを好きなのだと知っている相手にまで思わず嫉妬してしまう自分が嫌になる。


「じゃあまた!

 追伸:私も来月から秋までラッシュバレーに修行に行くことにしました。
    エドやアルががんばってるのに、ただ待ってるだけは嫌だから。
    だから今月のうちにお手紙もらえてよかった。 
    お返事はラッシュバレーの「ガーフィールの店」にお願い!
    待ってるね!!

                     ウィンリィ・ロックベル」


懐かしい声と笑顔がすぐそこにあるような文章を何度も読み返して、もう一度ため息をつく。
姉のような、今も大好きな唯一の友人。
彼女に今すぐ、この気持ちを、いつからか抱え込んでいる悩みを打ち明けて聞いてもらえればいいのにと思いながら、丁寧に便箋をたたんで封筒に入れた。




「おはようございます」
次の日の朝、書物を手にいつもの待ち合わせの場所にやってきたアルフォンスを見たメイは驚きに目を見張った。
紺地に白のボーダーの襟無しのシャツ、ベージュのズボン。アメストリスではよく見かけた服装だけど、シンに来てからのアルフォンスはいつも前をボタンで止める襟付きのシャツにベストとズボンをきっちり着込んでいたためとても新鮮に見える。
朝の綺麗な陽光にきらきら光る金色の髪がシャツの紺色に映えて、さわやかすぎてまぶしいくらいだ。
「どうしたの?」
「あ、アルフォンス様がそういう服を着られてるのって初めてですね」
「うん、昨日のホークアイ中尉からの荷物に入ってたから早速着てみたんだ」
屈託なくそう答えられて、複雑な気分で視線を反らしながらメイは答えた。
「お似合いですよ」
どんな服を着てたってアルフォンス様が素敵なことに代わりはありませんけど、と内心で付け加えて歩き出す。
すぐに横に並んだアルフォンスはメイが提げている竹籠をちらりと見て問いかけた。
「今日のおやつ、何?」
「ごま団子と桃まんです。厨房係が『今日は特によくできた』って言ってましたよ。楽しみですね」
いつもの会話をしながら書庫にたどりつく。
シン国の歴史と知識の粋を収めた皇宮書庫には、基本的に開放されている一般棟の奥に皇族もしくは許可された者のみが入れる特別棟がある。
人の出入りを記録している文官から鍵を受け取り、二人は特別棟への渡り廊下を進んだ。
メイが頑丈な錠を開け、アルフォンスが重い扉を開くとひやりとした空気と一緒に古い紙独特のほこりっぽい匂いが押し寄せる。
揃って軽く咳き込みながら入り口の横の小部屋に荷物を置き、空気の入れ換えのために壁の小窓を手分けして開けて回る。
そのついでにあらかじめ目星を付けておいた書物をそれぞれ棚から持ってきて、卓上に置き向かい合って座る。
「さてと」
「昨日の続きからですね」
基本的に他人がやってこないこの場所なら邪魔も入らなくて、別の文献を参考にしたければすぐ取りに行けるから部屋でやるより効率がいいはず。
アメストリスの錬金術師たちが個人的に記している研究書ほどではないが、シンの錬丹術に関する書物も基本的には比喩を多用した暗号的な文章になっている。特に古い書物の中には元々錬丹術に親しんでいるメイですら理解に苦労する表現や単語が多く、だからこそシン国人ならあたりまえの考え方にとらわれないアルフォンスの視点があって初めてたどりつけた真実も決して少なくはない。
おたがいの考えを出し合いぶつけ合って真実を導き出すその作業は知的好奇心を満たして面白く楽しいのだが、…とにかく疲れる。
「やっぱりダメだよ、それじゃ前後の意味がつながらない」
アルフォンスがふう、と大きく息をついて両腕を上げ、背筋を伸ばした。
「けっこういい解釈だと思ったんだけどなー…」
「ちょっと休憩してからまた考えませんか」
手で口を押さえて小さくひとつ咳をして、こっちはぐーっと両腕を前に伸ばしたメイが提案する。
「そうだね」
卓上に広げまくっていた書物を取捨選択しながら片づけ、場所を作りながらアルフォンスはふと、思いついたことをつぶやく。
「もしかしたら、その本シン語だけで書かれてるんじゃないのかも」
「え?」
「ほら、アメストリスで解読した国土錬成陣の本みたいにさ」
「あ」
数年前のことを思い出したメイがぽん、と手をたたいた。
「確か…あの本は、錬丹術に関するシンの単語と、あとイシュヴァールの古い言葉があちこちに入ってたので、マルコーさんだけでも私だけでもスカーさんだけでも解読できなかったんです」
持ち込んでいた籠の中から魔法瓶を出してあらかじめ入れてきたお茶を器に注ぎ、アルフォンスの前に置いて笑顔で続ける。
「でも、あのとき決定的なきっかけになったのはアルフォンス様の思いつきでしたけど」
「そうだったっけ」
「ですよ、『逆転させる』ってことに気付かなければ、裏の方に『逆転の錬成陣』も描かれてるってことは分かりませんでしたから」
連想と予想の欠片が見事に組み合わさり、結果を導き出していくあの過程は今思い出しても鳥肌が立つようで。
喉を潤したアルフォンスが、解読中の書物に指先で触れる。
「あの本を書いたのはスカーの兄さんだったよね。…できれば、一回話してみたかったかも」
アメストリスの錬金術とシンの錬丹術。
似て非なる二つの知識に通じ、人ならぬものがアメストリス国土に仕込んだ謀略に気づき、それに対抗する手段をも導き出し、書き残し、信頼できる相手に託し未来へ残したその人は正に「賢者」と呼ぶにふさわしい。
「生きていらっしゃれば、本当にすごい術者になっていらっしゃったでしょうね」
肩から卓上に飛び乗ったシャオメイにおやつのごま団子を一つつまんで渡してお茶を飲んだメイがぽつりとつぶやいた。
作品名:幸せの姿(第4回) 作家名:ロクヨンゴ