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ロクヨンゴ
ロクヨンゴ
novelistID. 11550
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幸せの姿(第4回)

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「もういいです」
彼の首に絡めていた腕をほどいて少し体を離したメイが明るい笑顔になって続ける。
「嫉妬、してくださったんですよね?」
素直にうん、と答えて、アルフォンスは両手のひらでメイの柔らかいほおを包む。
「やっぱりメイは笑ってる方がかわいい」
そう言ってから近づいてくる金色の瞳に、次に来る行為を予感してメイは目を閉じた。
想像よりずっと熱くてやわらかいものが唇に触れて、離れていく。
おそるおそる目を開けると、予想より近い距離にいたずらっぽい笑顔があった。
「レモン味だ」
「…さっき飴食べましたから…」
「そうだね」
耳まで真っ赤になっている彼女の様子がとてもとても可愛くて、もう一回、と近づいてくるアルフォンスの唇をメイが手のひらで押しとどめた。
「ダメ?」
「じゃないですけど、風邪、移ります」
「風邪じゃないって言ったじゃない」
「言いましたけどっ」
「メイからならいいよ、移っても」
そう言ってメイの反論を封じた唇は、今度はさっきより長い時間重なっていた。



高揚していた気持ちが落ち着いてくると、妙な気恥ずかしさに襲われる。
「みんなにはしばらく内緒にしとかないとね」
「…はい」
からかわれる云々より、おたがいの立場を考えればさすがにそう簡単に公にできないことは分かる。
そのことに少し切ない気持ちになったからこそ離れがたくて、でもいつまでもこうしているわけにはいかなくて。
おたがいの存在を抱きしめる腕に温かく感じながら、いつもの態度を取り戻すために深呼吸を繰り返す。
でももう少しだけこうしていたいな、と思う気持ちを断ち切るように、書庫の方からシャオメイの声が聞こえた。
「シャオメイ!?」
聞き間違えようのない激しい威嚇の声に、アルフォンスの胸からはっと顔を上げたメイが腕をほどいてそっちへ駆け寄る。
アルフォンスもそれに続き、部屋の入り口で全身の毛を逆立て声をあげて向こうを威嚇するシャオメイの後ろで立ち止まった二人は薄暗い書庫の床の上に、ここにいるはずのない生き物の姿を十数匹認めて息を飲んだ。
四対の歩脚、二本の鋏。砂色の甲殻類のように見えるけどそうじゃない。毒針を持つ尾を高く上げてカチカチと独特の威嚇音を鳴らしているその砂漠の生き物は。
「蠍、だよね」
しかも記憶と判断に間違いがなければ、小さいながらも人間を即死させる強さの毒を持つ種類のはずだ。
「シャオメイ、下がって!」
メイが鋭く命じながら袖の中に隠し持っている鏢を投げる。五本とも外れることなく蠍の胴と頭を裁ち切り、五匹の命を奪う。
「メイ」
書庫に踏み込み、革靴の底で迷わず数匹を踏みつぶしながらアルフォンスが声を上げた。
「一匹だけ、そのままつかまえるよ」
「はい!」
メイの手からやや離れた場所にいる一匹に向かって5本の鏢が飛び、丸く囲むように突き立つ。
それと同時にアルフォンスが胸の前で両手をぽんと合わせる。
閃光が走り、少しえぐれた床の上に蠍を閉じこめた透明な塊がカチンと音を立てて落ちる。うまくいった。
それから二人とシャオメイは書庫中を回った。シャオメイがその鋭い嗅覚で蠍を見つけ出して威嚇するとすかさずメイの鏢が飛び、もしくはアルフォンスが踏みつぶす。
「とりあえず、もうここにはいないと思います」
メイの言葉にうなずいて、アルフォンスは床から蠍をまるごと閉じこめた樹脂の塊を拾い上げた。
「僕、陛下に報告してくるよ」
「私はシャオメイを連れて宮中を回ります」
ここ以外の場所にいなければいいのだが、もちろんそんな確証はないしもしも誰かが刺されてしまったら大変なことになる。
後かたづけと鍵をお願いします、と言い残して早速外に駆け出して行こうとするメイの袖をアルフォンスは咄嗟につかんだ。
引き寄せて抱きしめて、ささやく。
「気を付けて」
彼の胸に顔を埋めながらその言葉を聞いて、離れたくない気持ちを振り切るようにメイはアルフォンスの胸を押した。
「はい、アルフォンス様こそ」
名残惜しく両手を取って、握りしめて、告げる。
「行ってきます」
踵を返して走り出す。
残されたアルフォンスは手早く床と卓上と持ち込んだ荷物を片づけて、鍵を手に取る。
窓を閉め、早足にならないように注意しながら報告するべき相手のもとに向かった。
作品名:幸せの姿(第4回) 作家名:ロクヨンゴ