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Pigment Blue 35+

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「――どうした?」
 集まるのは大抵、学校の片隅にある礼拝堂だったり、無駄に広い図書室だったりしたものだ。
 それだって学内では目立って集団活動をしていたわけでもない。集まったところで誰かの目をひくような問題児ではないのだけれど、そういうことをこいつが誰より好まないことを知っている。
 少しばかり埃くさい部屋の窓を開けてから目の前の椅子をひくと、当然のように青葉が少しばかり怪訝そうな顔で資料から顔をあげた。
 広げられた願書を手に取ると、来良学園と街では見慣れた名前が落ちていて僅かに口許が歪むように笑いを零した。ああ、やっぱりな、なんて具合に、軋む椅子に背が揺れる。
「いんや、本気で転校までするのかと思ってさ。なんか噂になってたからさ」
 ぴんっと指先から弾くように揺らした冊子が簡単に、目の前で抜き取られる。頬肘をつくように向けた視線の先で、細い肩が気だるそうに軽く竦められた。
「その方が都合がいいだろ」
 だなんて落ちてくる声は愉しそうな棘を含んでいる。
「あー……あのタイプは外から近付くのは面倒そうだけど、直々におまえが行くとは、ね」
 竜ヶ峰帝人なんて名前ばかりが大仰な人物のことを、知ったのは春先だっただろうか。
 相変わらず正体の知れないダラーズの創始者だろうなんて、俺たちの推測が何処まで合っているんだかは知らないけれど、この頃では随分と確信にも近く語られるようになっていたものだ。
 何処かの企業以上に面倒な作りになっていると単調そうに見えたサイトを相手に珍しくあの八房が匙を投げたのもあるだろう。ネットの世界でも現実でも、情報をかき集めたところでそう簡単には彼に辿りつけなかっただけに、最近の青葉の関心事は随分と彼一人に注がれていた。
 あのひとを取り込もうだなんて、まるで駒を入れ替えるような発想が何処まで本気だろうかと、思わなくもなかったのだけれど。いつだってこいつの作戦に、ノーという奴なんて、いやしないのだ。
 来良に通っている年長からは、ダラーズの創始者と黄巾賊のあの「将軍」と肩を並べて登校しているだなんて、考えてみれば奇妙な話まで舞い込んできた。なんて、そんなことは深くまで俺たちが考えることでもないけれど、彼に関する懸案事項なんてその頃はまだ、その程度でしかなかったのだ。
 いつだってすべては計算されていて、無謀な賭けはしない。
 それでも、踏み出すよりも早く、
「別に、春から想定はしていたし……下手を打つわけにもいかないからな」
 なんて、随分と慎重になるようになったのは割合と最近の話だ。
 少し前までダラーズの掲示板を騒がせていた話題に顔を突っ込んだそのときに何があったかなんて、一緒になって動いていたのだから知らないわけでもない。けれど事の顛末よりもむしろ、反吐が出る、と思わず零したような硬質な響きのほうをやけに強く覚えていた。
「……ああ、折原臨也か」
 いつでも、愉しければそれが全てだ。
 思考回路なんてもう疾うにこいつに預けているのだ。それでも、揺れ動くような言葉を持っている大人の干渉なんかは好まない。
「状況が変わったんだよ」
 ブルースクウェアに誰よりも思い入れがあるのはきっと青葉だと、それはもしかしたら、「あちら」側にはいけないだろう俺の願望のようなものかもしれない。
 人間がすべて好きだという男と青葉は、きっと本質的な意味では近いような気がしていた。誰も特別視しない青葉が、それでも世界から切り取るものを俺はいつでも少しだけ気にしている。

「ま、美術系の充実したとこ探してはいたから丁度良いと言えば良いんだけどさ」
「あはは、部員二人とかだもんな、お前んとこ」
 薄らと細められた視線に籠められた意味に、気付かないほど馬鹿でもない。
 素知らぬ顔で笑って飛び込んでみせるくらいしか出来ることなんてないのだ。捨て駒なら、それらしく振る舞うことに長けていればそれで良いだろう。それ以外の何を、求められることもないと知っている。
「来良ねえ……なんて説得しよっかな、」
 窓から落ちてくる風は、嵐を予感するように少しだけ肌寒い。埃が揺れて少しだけきらきらと目の端でカーテンをはためかしている。
 肩を竦めるような仕草に腰を起こすと、秋の色を帯びた木々が手の上に長い影を落としていた。
作品名:Pigment Blue 35+ 作家名:繭木