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北野ふゆ子
北野ふゆ子
novelistID. 17748
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ファーストコンタクト

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 あまりに当然のように膝の上へ置かれた刀。本田は面食らって刀とアルの顔の
間で数度、視線を往復させた。
「キクがその刀で斬って良いのは、俺の事だけだ。もう他の誰も斬るな」
「…???」
 本田は混乱していた。
 このアメリカ人が何を言っているのか分からない。
 捕虜の命を助けて、命を捧げろと言ったり自分の命を捧げるとも言い、あろう
事か武器まで簡単に返還してきた。
「あ、でも困ったぞ」
 三文芝居のように、アルはおどけた声と仕草で首を傾げる。
「へ?」
 ますます本田は混乱した。
「俺がお前を殺したら、お前は俺を殺せなくなるな」
「はあ」
「逆にお前が俺を斬ったら、俺はお前を殺せなくなる」
「そう、ですね…」
 次第に本田の表情が訝しげに曇り、声のトーンが落ち始める。このアメリカ人
、急に気がふれたのではないか。そんな事を言いたげに。
「どちらか片方が死ぬのはフェアじゃない」
「はあ」
「だから、俺達はどちらも死ぬことができないな」
「………二人とも死ぬって事は考えないんですか」
 心のどこかで無駄だと悟っていても、あえて本田は反論してみた。
「NO」
 アルの答えは明瞭だった。
「俺はお前に殺される以外で死んではならないし、お前は俺以外に殺されてはな
らない。That means....不可能って事だ」
「相討ちとか」
「それもNOだ。ちゃんと同時に死ねる保証がどこにある?そんな確率の低い話は
するべきではない」
「………はぁ…」
 本田は大きく溜め息をついた。これがアメリカ人というものだろうか。
 一昔前、こんな調子で先祖も言いくるめられて気がついたら開国していたので
はないか。そんな馬鹿げた憶測さえ浮かんできてしまう。
「―わかりました」
 そう頷くしか選択肢が無いではないか。
 捕虜の身である以上、従うしかないのだから。
 控えめに苦笑する日本人に向けて、
「Good」
 アメリカ人は、大きな笑顔を咲かせた。