二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

妖鬼譚

INDEX|27ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

*****



今現在の仮の住居である山奥の一軒家の一室に腰を降ろし、端整な顔立ちにこの世の終わりとしか言わんばからの憔悴し切った表情を浮かべているのは白石。

謙也の家から離れた直後は、まだ普通だったのだが、そこから遠ざかるにつれ徐々に元気を無くして行き、自分達の塒へと戻った時には、今の様に不幸の一番底にでもいるかの様な表情になっていた。
その原因が何処に在るのかをはっきりと理解している千歳は、そんな白石を意図的に無視していたのだが、家で待っていた金太郎は、出掛けはあれだけ上機嫌だった筈の彼がこんなにも凹んで帰って来た理由が分からず、しきりに訳を訊ねた。
だが、白石は自分の両膝を抱えたまま何も語ろうとしない。
そんな何時迄も無反応な白石に構うのに厭きたのか、最終的に金太郎もその傍で本を片手に詰め将棋を解いている千歳へとその興味の対象を移す。

「なぁなぁ千歳、白石、どないしたん?」
「あぁ、金ちゃん。別に何でもなかよ」
「何でもなく無いわ……」

嗚呼、もう俺は死ぬしかあらへん、と、立ち上がるなり芝居掛かった大袈裟な仕草で自分の身体を抱き締める白石。
そんな白石が心配になった金太郎は、彼の顔を下から覗き込んで慰めようとする。

「白石、死んだらあかんで」
「大丈夫ばい、白石が謙也君を置いて死ぬ訳なか」
「謙也……謙也ぁぁぁぁぁっ」

白石はどれ程の年月が過ぎようとも変わる事無く愛しい人の名を呼ぶと、再び頭を抱えて蹲ってしまう。
と、そこで事態を察したのか、金太郎は大きな瞳で二人を責めるように睨み付けた。

「もしかして、二人で謙也に会いに行ったん?ずるいずるい、ワイも謙也に会いたい」

そう言って一瞬頬を膨らませてみせる金太郎だったが、あれ?と小首を傾げて見せた。

「でも、それやったら何で謙也此処におらんの?白石なら、どんな事してでも謙也の事連れて来るって思っとったんに」
「それがな、金ちゃん、謙也君は来たくない言って白石の事拒否したと」
「えぇっ!?何で、何でそないな事言われたん?白石、謙也に嫌われたん??」

そんな風に無邪気に訊ねられ、白石は先刻の謙也の自分を拒絶する言葉を思い出して、更に鬱々とした顔になってしまう。

「まあ、白石は謙也君の今生の家族を殺したけん、嫌われても仕方なかよ」
「……しゃあないやん、謙也を取り戻すんにアイツらは邪魔やったんやから」
「それならさっさとする事だけして帰ればよかったと」

謙也君に会わなければ、あんな風に拒絶される事もなかとよ、と千歳が言うと、白石は何を言っているんだと言わんばかりの顔をしてみせる。

「折角謙也の傍に行ったんに、顔も観んで帰るとか、出来る訳ないやん」
「でも、それで嫌われたら何の意味も無かね」

と、肩を竦めた千歳の元に何の前触れも無しに、外からひらりと金色の奇妙な形状の羽根を持つ蝶が飛んで来て、彼の胸元へと止まった。
おや、と呟いた千歳がそれに触れようとした瞬間、その蝶はまるで陽炎の様にゆらりと歪んで消えてしまう。
だが、それで何かを悟ったらしい千歳は、一瞬目を瞠った後、嬉しげに唇を綻ばせた。そして。

「金ちゃん、ちょっと出掛けて来るけん、白石の事宜しく頼むばい」

そう言うなり、持っていた本をその場に置くと、突然その場から姿を消してしまった。
一人残されてしまった金太郎は、再び失意の底に沈んでしまっている白石の姿を見ていたのだが、ふと何か良い事を思いついたのか、声を上げずに会心の笑みを浮かべると、白石に悟られないように静かにこの場を離れて、何処かへ行ってしまう。

暫くの後、何時迄も凹んでいても仕方ない、こうなったら一刻も早く愛しい謙也を取り戻すように動こう、と我に返った白石だが、傍には既に誰もいなくなっていた。
何時迄も放置されたと考えた白石は、バンと敷かれている畳を力任せに殴って穴を空けてしまう。家を壊してしまった事に一瞬気まずい気持ちになった白石だったが、すぐに気を取り直して今度はやや控えめに再び畳を殴る。

「こない心がズタズタな俺を放置するなんて、二人共、ホンマ最悪や!!」

そう叫んで八つ当たり気味に、自分と同じ様に放置されていた詰め将棋の本を庭へと投げ付けたのだった。


作品名:妖鬼譚 作家名:まさき