二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

妖鬼譚

INDEX|40ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

「……何や、これ……」
「どうしたんですか、謙也さん!?身体は何ともないですか!?」
「思い、出した……思い出してしもた」

身体を揺さ振る光の声など聞こえないように、謙也は自分の身体を抱き締めると繰り返し『思い出してしまった』と呟き続ける。だが。

「謙也」

自分の名を呼ぶ声を聞いた瞬間、ハッとなった表情を浮かべて、その声がする方へと顔を向ける。
すると、その視線の先にあったのは、狂おしいほどの想いと愛情の籠もった笑みをその美貌に浮かべる白石の姿。

「しら、いし……?」
「お帰り、謙也」
「ただいま……ただいまっ、白石っ!!」

白石の名を呼ぶ謙也の声は、先程迄の殺気に代わって、溢れんばかりの切なさと愛しさに満ちている。
それと同時に、謙也を取り巻いている鬼門の臭気が今迄とは比較にならない程強くなっている事を感じ、光はまさか、と恐怖にその身を震わせる。
だが、謙也以外の存在が目に入らない白石にとっては、そんな姿はどうでも良かった。

「さあ、帰ろう、謙也」

と、腕を伸ばす白石に涙を湛えた瞳を向けた謙也だったが、その手から逃れる様に距離を取る。

「謙、也……?」
「白石、無理や」
「な、にが、や?」

拒否されるとは微塵も考えていなかった白石は、そんな謙也の言葉に驚愕の表情を浮かべる。
それを見て、一瞬悲しげに顔を歪めた謙也だったが、何かを堪えるように一つ息を飲み込むと、きっぱりと拒絶の意思を告げる。

「俺は、お前の元には行けへん」
「な、何でやねん!?全部思い出してくれたんやろ!?」
「おん、思い出した……俺は鬼門の"茨城童子"で、"白石蔵ノ介"の恋人。俺はお前を……愛しとる」

と、謙也はそこで言葉を切ると、切ない色を秘めた瞳を伏せて、ゆるゆると首を横に振る。
そして、再び目を開けたその時、謙也の瞳には思慕と呼べる物は欠片も存在していなかった。
それに代わって、謙也を満たしているのは『怒気』。
その感情のままに、謙也は自分の怒りを白石へとぶつける。

「せやけどな、俺の家族を殺したお前を、俺は許せへんのや」
「お前の家族は、俺だけやろ?」
「ちゃう!!俺のおとんもおかんも翔太も、皆大事な家族や!!それを奪ったんは、白石、お前や!!」
「謙也……」

戸惑う白石は、瞳に怒りの炎を点し自身を睨み付ける謙也へと歩み寄ろうとしたが。

「来るなッ!!」

そう叫ぶと、その感情に反応するかの如くに謙也の周囲に誰も寄せ付けない様に烈風の壁が巻き起こる。
そして、呆然と成り行きを見守っていた光の方へと向き直ると、すまなそうに頭を下げてみせた。

「ごめんな、財前……俺、やっぱりお前の敵やったわ」
「謙也さん、俺はッ、俺はそれでも……ッ」

自分へとふらふらと近寄って来ようとする光に向かって静止させる様に手を翳すと、駄目だと言うように、きっぱりと頭を横に振る。

「悪いんやけど、おとん達は鬼門やあらへんから、ちゃんと葬ってやってな」
「えっ、謙也さん、何を……?」
「白石、財前、ホンマにゴメン。そして……さよなら」
「謙也ッ!?」
「謙也さんッ!?」

哀しげな響きと眼差しだけを残して、一陣の風と共に謙也の姿はこの場から掻き消えてしまったのだった……

作品名:妖鬼譚 作家名:まさき