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妖鬼譚

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「財前、いきなりなんやけど、一つ頼みがあるんや。聞いてくれへんかな」
「な、んすか?」
「……お願いやから、俺の事、殺してくれへんか」
「な、に、言うてんですか……アンタ?」

余りにも唐突に聞こえて来た信じられない言葉に、光は呆然と顔を上げて謙也を見るが、穏やかな笑みを湛えている彼の瞳の色は酷く真剣な物だった。
涙の跡が色濃く残る頬をそっとなぞりながら、瞠目する光に向かい、謙也は淡々と言葉を続ける。

「鬼門はお前らの敵、なんやろ?俺な、皆の前から姿消してから、ずっと色々と考えたんや。俺は、やっぱり家族を奪った鬼門が憎くて仕方ないんや……その『鬼門』は、俺自身も含まれとる」
「ま、待って下さい、謙也さんが家族殺したんとちゃうやないですか!?それなんに、何で……」
「俺の家族は、俺が居らんかったらあないな風に殺される事はなかったんや。つまり、家族を殺したんは俺や」
「………」
「それにな、俺、財前に殺されるんやったら、後悔なんか何もせん。せやから……俺を殺して」

そう言って微笑んだ謙也は、そっと光から離れて距離を取って彼の方へと改めて向き直ると、瞳を堅く閉じた上で両手を軽く広げた無防備な姿を曝け出してみせた。
その言葉を受けて、迷いの表情を浮かべていた光だったが、長い長い逡巡の後、何時も背負っている愛刀をゆっくりと鞘から抜くと正眼に構える。
そしてギリ、と奥歯を食いしばると、思い切り謙也へ向かって踏み込むと同時に刀を振り被った。
鋭い刃が唸りを上げて風を切り裂く音が耳に届いた謙也は、身を固くして自らの終わりを受け入れようとする。

……だが、己の存在を無に帰す筈の痛みは、何時迄経っても訪れない。
それを不思議に思いゆるりと目蓋を持ち上げると、光の振るった銀の刃は自分の目前で止められていた。
その刀を持つ手が小刻みに震えている事に気付き、謙也は顔を苦し気に歪めている鬼狩の少年に呼び掛ける。

「どうしたんや、財前?」
「……無理、や…」

血を吐く様な呻きと共に、カランと乾いた音を立てて光の手にしていた長刀は、床の上へと転がり落ちる。
投げ出された刃と唇を噛み締める光とに交互に視線をやった謙也は、縋る様に疑問を投げ掛けた。

「……何で殺してくれへんの?お前は、鬼門を滅するんが使命なんやろ?」
「俺は、謙也さんが好きや……殺すなんて、死んでも出来へん!!」
「でも、でも俺は……」
「アンタが鬼門やとか、そんなん関係あらへん!!」

と、光は謙也の言葉を否定する様に激しく首を横に振ると、謙也の左手を取り熱の籠もった眼差しと共に躊躇う事無く自分の想いを口にした。

「俺は、財前光は、忍足謙也を愛してます。この世の誰よりも、何よりも」
「……ホンマにありがとお、光。俺も光ん事、好きや、愛してる。やから…………ごめん」
「えっ?」
作品名:妖鬼譚 作家名:まさき