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ちょっとだけいつもと違う日

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 何度目かを数えるのも馬鹿らしい。
 間隔こそ開きつつあるけど、そいつはふらっと邸内に忍び込んでは、他の者に見つからないようこっそりと顔を出しなんやかんや言って来る。
 大体が狩りにでも行こうといった、到底女のしない遊びへの誘いが主だった。それもこちらがどう見ても仕事中なのを承知の上で。そういえばこの光景が始まった頃、女装野郎とか頭に付いてた気がする。その文句を聞かなくなってとうに久しい。
 とはいえ、この後のやりとりはほぼ決まっている。さらっと軽く拒否の意を示して、向こうが2、3憎まれ口を叩き、それもまた軽くいなす。そしてさよならの流れ。必要以上にこちらの仕事の邪魔はしないで帰っていく分、多少なりとも気は使っているのかもしれない。
 そんなお決まりの流れを初めて変えたのだから、当然の結果というべきか、向こうは大層面食らっていた。
「マジで? え、マジ? も、もっかい頼むっ、ハンガリー」
「だから、狩りじゃなくて遠乗りならいいって言っ」
「行く!」
 そいつ、プロイセンは復唱要求しておいて人の言葉を遮り即答。そして思わず出てしまったらしい大きな声に慌てて自身の口を手で塞いだ。忙しいやつ。
 表情というのは、ある程度隠れていても案外わかったりする。口を押さえたままあたりに視界を巡らせ警戒しているものの、嬉しそうな顔の緩みは簡単に見て取れた。
 何故かその顔が見慣れたもののように思え、何時何処でこの顔を見慣れる程見かけたのか、記憶の引き出しから答えを探し出そうとした時、ようやっとプロイセンは自分で招いた緊張を解いた。
「…本当にいいのか?」
「しつこいなぁ。ただ、条件付き」
「なんだ?」
「日時と行き先は私が決める。待ち合わせに間に合わなくても私は待たない。あと…」
「行く」
 この場にオーストリアさんがいたら、人の話は最後までお聞きなさい!とポコポコしそうな反応2回目。
 私は箒を持つ手を休めずに淡々と条件を並べ、あいつはひとつひとつ真剣に聞き取ってその日は帰っていった。

 さてその後。
 仕事もひと段落してひとまず休憩しようと屋敷内に戻ったら、とある部屋の扉の前で神聖ローマがじっとしていた。より正確に言えばこっそりと中の様子を伺っているようだった。
 幸せに満ちた横顔から中にイタちゃんが居るだろう事は想像に難くなかった。その可愛らしい様子に癒されつつ、邪魔しないよう歩いてきた廊下へ踵を返す。と、神聖ローマの幼いほっぺとさっきのあいつがふいに重なった。
 そっか。見慣れてたのは神聖ローマのあの顔か。
 片や少年、片やもう青年と言っていい姿で、髪も目の色も違うけど同じゲルマン系で容貌が似ていても不思議じゃない。顔の作りが似ていれば表情も似てくるのは当たり前の事で。
 やたら嬉しそうだったのも、延々誘いを断ってたからだろうなぁと結論付けて、私は屋敷内を遠回りして休憩室へと向かった。

作品名:ちょっとだけいつもと違う日 作家名:on