I eat up your heart. Ⅰ
婦人は見たところ二十代後半だろうか?
まぁ、守備範囲なのは変わらない。
できるだけ音をたてないように近づく。
そして……!
(ザシュッ!)
本能のまま噛みつく。
少しだけ血が飛び散り、頬についた。
生温かい血。
バンパイアにとってそれはどんなに極上なワインでも敵わない…至高の食物。
「ぁ……」
腕の中で死んでいく婦人の身体。
小さく声をあげるがその声は俺以外には届きやしない。
甘い血の香りが鼻腔を刺激する。
こくん、とそれを飲み込んだ。
しばらくして、俺はアーサーのところへ歩き出した。
早くに行ってもさらに腹が減るだけだ。
「アーサー、終わった?」
遠慮がちに尋ねると彼はその顔をこちらに向ける。
「あぁ…けっこう、うまかった。」
そう言うと口についた血を舐めた。
人狼ってのはどうも喰い方が汚い。
もうちょっと上品に喰ったらどうだ?、と思う。
バンパイアから見ると気持ちの良いものではない。
「なぁ…」
聞いてないな、コレ。
婦人の体はほとんど骨と化している。
はぁ…と俺はため息をつき、トニョが食べ残した内臓をヒョイっと川の中へ投げ捨てた。
「あー…腹いっぱいやぁ~♪」
満足そうな声が背後から聞こえる。
…グロテスクな食事タイムは終わったようだ。
「それじゃ行こうぜ。」
「どこに?」
子供みたいな表情でこちらを見る。
「デザート喰いたいだろ?」
一瞬、きょとんとしたトニョだがすぐに緑色の瞳を煌めかせた。
「うん、行く! 俺、小っちゃくてかわえぇ子がえぇんねん!!」
トニョの笑顔はまるで太陽みたいだ。
俺は精いっぱいの笑顔で応える。
…今は、これだけでいい。
例え気持ちが伝わらなくても一緒にいられるなら。
作品名:I eat up your heart. Ⅰ 作家名:狼華