始まりの調べ
「へ・・・・・・?」
琥流栖は顔を上げた。
「一人の男じゃなくて、一つの置物が手を差し伸べてると思えばいい。」
そういうと男の子は琥流栖の手を取った。
「!」
身をすくませた琥流栖にすかさず
「置物」
と男の子は言った。
「あ、はい・・・・。」
この人は、置物置物置物・・・・・・・。
すると念じる方に意識が言ったのか、あまり気にならなくなった。気が付くと立ちあがっていた。
「あ・・・・・・・。」
「まったく…・手間をかけさせおって。立ち聞きする勇気はあるのにな。」
ハッと気が付くと自分はその人の手を握っていた。
(あったかい……。)
異性の手を握るのはあの事件にあう前以来だ。滑らかな肌だけど少しだけ、女性と違うような、つくりをしていた。
これが男の人の手なんだ・・・・。
改めて思うと顔が赤くなっていった。
「あ、あの・・・すみません!・・・ありがとうございます・・・・!」
「・・・・・次からはこけないように気をつけろ。」
手を離すとそういい、顔をそっぽ向けた。
「あ、あの・・・・・。」
「なんだ?」
嫌がってる感じはしなかったので、思い切って琥流栖は言ってみた。
「名前を・・・・聞いてもいいですか・・・・・?」
「なんでだ。」
あ、明らかに警戒してる。当たり前だよね。
「……あの・・・・弾いてた曲……もう一度聞きたくて・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「あ、やっぱり迷惑ですよね・・・・。こけちゃうし、とろいし・・・。」
「・・・・・クレスだ。」
「へ・・・?」
「私が名乗ったんだ、お前も名乗れ。それとも、自分の名前を言えないほどにお前は鈍いのか?」
「あ、あの、すみません…わたしは琥流栖(クルス)です。」
「・・・聞いていけ。」
「あ・・・・・。」
繊細な調べが流れ始めた。耳に心地よい音が流れ込む。
―――体の隅まで沁み渡ってくみたい……気持ちいいなぁ・・・・・。
しばらくの間、琥流栖は曲を聴き続けていたのだった…。
その後、クレスが曲を弾き終わりかえる時がきた。
「あの・・・・。」
「ん?」
「・・・・・また・・・・ここに来ますか…?」
「わからんな。一応ここは誰か住んでるようだし、お前みたいな変わり者じゃなきゃ弾く気にならなかったしな。」
「あうぅ・・・・・・そうですか・・・・。」
「おい琥流栖。島の名前は?」
「え・・・・?・・・・・Capsicum島・・・・。」
「・・・・・私の機嫌がよかったら。そっちに来てやる。」
「・・・・・!」
「何だ、その目は。迷惑なのか?」
「い、いいえ、もう全然!」
こうして、琥流栖は初めての男友達ができた。
ーつづくー