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【フェルテス】ベッドならどこでも眠れる街、第二章にて【ダニル】

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ベッドに投げだされた手足を見下ろして、さてどうしようかとダニルは額に手を当てる。毛布もかぶらずベッドに倒れこんでいるのは見間違えようもない、情報の対価を支払うためマナン情報屋に住み込みを続けている青年……フェルテスだった。

 夜更けのアビスターナの路地をおぼつかない足取りで進む人影に、ダニルは思わず視線を止める。それが誰であるかは夜目に、霧越しに見てもすぐに分かった。
 燃え立つような赤い髪を持つ男は、今のアビスターナにはフェルテスただ一人しかいないし、例えそれがなくたってあの圧倒的な存在感だけでかれと断じることができる。
 だが今日は少し様子がおかしい。ダンジョンから引き上げた直後だったのか、フェルテスは鎧についた返り血もそのままに、ひどくゆっくりとした所作で歩いていた。目を凝らすと、片足を引きずっている。進行方向からして目的地は情報屋だろうが、フェルテスの背中、ひどく重量のありそうな背嚢を見つけ、思わず首を傾げる。
 情報屋の近くに、魔物から剥ぎ取ったそれらを金に換えてくれる場所はない。普段のかれなら道具やへ立ち寄って背中を軽くしていくはずであるが、まさかそれすら億劫であるのかと、ダニルは信じられない思いで角を曲がる背中を見送った。普段、しゃんと背筋を伸ばして歩く男の薄汚れて頼りないさまに、一抹の不安が胸をよぎる。
 アビスターナはその土地柄、教国や帝国の軍人があまた駐在しているが、それが治安の向上に繋がるかといえば一概にそうとはいえない。むしろ軍人同士の諍いは日常茶飯事だし、大陸のあちこちから流れてくるハンターに盗賊団と、アビスターナはモンスター以上に人間に気をつけなければならない土地だった。フェルテスの経歴がそれに拍車をかける。かれに恨みやそれ以外の、あまり上等とは言えない感情を抱く者たちが少なくないのは、ここ数日でしっかり認識させられた。いくら市街地とは言えあの弱りきったようすでは、いつ盗賊団に物陰へと引きずり込まれるか分かったものではないだろうに。
 手袋に包まれた指先を額に当てて、ダニルは少しだけ考える。わかりきった結論を再確認するのにたいした時間は要らなかった。
「ま、上司のお気に入りを守るのも、部下の務めってことで?」