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【フェルテス】ベッドならどこでも眠れる街、第二章にて【ダニル】

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 フェルテスの満足げな吐息が胸を濡らす頃、ダニルは錆びの浮いた鎧の動きで、上げっぱなしだった腕を静かにシーツの上に落とした。急に近くなった距離に、まだ心臓がばくばく鳴っている。
 間近で観察すると、寝顔はますます幼く見えた。生きているか死んでいるか不安になるような静けさは相変わらずだが、零れ落ちるかすかな吐息はダニルの肌を温めて、その生命のありかを明らかにする。仄かな光にも紅茶色の照りを返す髪が眩しくて、目を細めた。
 ……本当に、今日は予想外のことばかりが起こる。
 この男も傷つくこと、人を待っていて眠ること。寝顔が案外可愛いこと、寝ぼけることも。
 予想外と言うよりも、自分はまだ全くこの男のことを知り尽くせていない事実を、改めて突きつけられただけかもしれない。ダニルは少しだけ苦笑して、もそもそ毛布の中に潜りこんだ。
「明日一緒に遺跡を探索したら、どんな顔を見せてくれやすかね……フェルテスの旦那?」
 そこにはきっと今日とは違うフェルテスがいるんだろう。それは中々に幸せな想像で、ダニルの苦笑を微笑みにすり替えた。
 ランプの芯が燃え尽きるささやかな断末魔が空気を焦がし、部屋を暗闇にへと戻す。明かりの消えた室内に、フェルテスの呼吸音だけが鮮明だった。
 とろとろと這い寄る眠気が憎らしいのに抵抗する気も起きなくて、命じられるままダニルは瞼を下ろす。いつの間にかフェルテスと同じリズムで背中を上下させていることに気づいて、ダニルはまた小さく笑った。
 夜明けは未だ遠かった。