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入れ替われれれ!!

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セルティは困惑していた。
 ソファに腰を下ろすこともなく呆然と立ちすくむ。
 PDAに無闇に「・・・・・・」と打ってしまう。言葉が出ないのだ。
 目の前で同居人であり恋人の新羅が見たこともない悪人面で帝人を見ている。
 帝人といえば新羅の視線など欠片も気にせず鏡を片手にキラキラとした眼差し。
 時折「若いっていいねっ、セルティ」とセルティに笑いかける。
 いつものはにかむような淡い笑みではない。セルティがヘルメットの下を見せたときのような満面の無邪気な笑顔。
 正直、かわいい。
 だが、帝人に呼び捨てにされるのは不思議な気分だとセルティは思う。
 ソファに座って所在なさげにスカートの上に手を置きもじもじしている杏里を気遣うように横に立つ臨也。
 違和感が止まらない光景。
 新羅が杏里と臨也に冷めた視線を送る。セルティが見たことのない表情だ。
「大体わかるけど、杏里ちゃんが帝人君、帝人君が新羅、俺が杏里ちゃん、新羅が俺。だよね?」
 それぞれ指を指しながら新羅は口にする。帝人から鏡を取り上げ自分の姿を映して肩をすくめる。
 すべてが新羅らしくなくてセルティは居心地が悪くなる。
『これは、どういうことなんだ?』
 セルティがみんなに見えるようにPDAをかざす。
「臨也、さ。冷蔵庫の奥の方から勝手に出した飲み物、配ったでしょ? 知ってたかもしれないけどアレ、父さんの・・・・・・あ、知ってたら自分は飲まないか」
 答えたのは帝人だ。中身が新羅であるので他の誰より現状を理解した物言いができた。何せ家主だ。
「帝人君に呼び捨てにされるのってなんか新鮮。もっと呼んでみて」
 ニヤニヤしながら手を広げて帝人に笑いかける新羅にセルティは引いた。
 そのセルティの対応に帝人の顔が険しくなる。
「気持ち悪いこと言って僕とセルティの仲を裂く気なら容赦しないよ?」
 新羅の白衣からメスを抜き取り、構える帝人。「物騒だなぁ」と両手をあげて降参のポーズを取る新羅。見ているものを不愉快にさせる言動にセルティはため息を吐くような仕草。
(これは新羅ではない。新羅であるはずがない)
 セルティは中身が臨也である新羅と普段とのあまりの違いに本当の新羅への愛を痛感する。
『大丈夫だ、新羅。私はお前の外見が好きなわけではないから、』
 打ちながら恥ずかしくなったのか消していくセルティに「セルティはやっぱり最高だよ」と帝人が賛美の声を上げる。
「なんだか複雑」
「テンションの高い帝人君はあんな感じになるんですね」
 赤面して頭を抱える杏里とおだやかな臨也。二人がまったりと会話する不思議。
 周りは険悪な関係だと認識していないが当人たちは天敵同士と言ってもよかった。それこそ平和島静雄と折原臨也ぐらいに互いの仲は殺伐としている。
「帝人君、その、大丈夫ですか?」
 おだやかに紳士的な臨也は好青年でただの美形だ。
 杏里の中の帝人も思わず見ほれる。
「えっ、と。何が・・・・・・?」
 顔を赤くしてそれを隠そうと少し俯きながら上目遣いをする杏里は殺人級の愛らしさがあった。
 生憎と新羅の中の臨也は(帝人君の姿で見たかった)と思っていたし、帝人の中の新羅はセルティにしか目がいっていない。
 杏里としては自分の姿にたいした感慨も浮かばない。
「・・・・・・あの、セルティさん」
 思案顔の臨也がセルティの肩に触れる。
 帝人が叫ぶのを新羅がうざったそうに押さえる。
 杏里は戸惑いながらいやそうな顔の新羅と「セルティセルティ」と連呼する帝人を眺めた。
 セルティと臨也、二人の間で会話が行われる前に玄関から破壊音が聞こえた。
「もしかして・・・・・・」
「最悪っ」
「え?」
「僕の身体で悪さしないでよ、臨也」
 順に臨也、新羅、杏里、帝人の発言である。
 セルティはおろおろと四人と玄関を見る。
 恐怖の大魔神は気楽に「わりぃ、来客中だったか」と言いながら廊下を進む。
『杏里ちゃん!隠れようっ』
 臨也の腕をつかむセルティ。
 新羅が馬鹿にするように笑うのを帝人が睨む。杏里は状況がわからずオロオロするだけだ。
「ん、来てたのはこいつらか」
 帝人と杏里を目にとめて静雄は納得したように頷く。
「静雄ってば、またどうしたのさ?」
 帝人がもっともな疑問を口にする。
 新羅のような口調に素直に「ナイフが足に刺さって折れた。取ってくれ」と答えて、首を傾げる。
「竜ヶ崎」
「竜ヶ峰です」
 静雄の言葉に杏里が応える。緊張しているのがありありとわかる、かたい顔。
「わりぃ、竜ヶ峰。その、なんだ、年上には敬語を使え」
「すみません」
「いや、お前には言ってない」
 謝り、肩を落とす杏里に静雄は戸惑う。
 新羅が「人の家に来るのにいちいちドアを壊す奴に言われたくないよねぇ」と立ち上がり白衣をはためかす。
 立っているセルティの隣、黒い繭のようなものを小突く。
「へぇ、さすが。あの影の鎌と同じ物質?」
「・・・・・・新羅、お前、今日はやけにムカつくな」
『静雄、これには訳が』
「セルティ、今日が僕の命日かもしれないよ」
 悲痛な帝人の声にセルティが「落ち着いて聞いてくれ」と打ち込んだPDAのを見せる前、事件は起きる。
 セルティの目には赤い残像が見えた。いつかの夜のように。あの時とは違いリトルグレイとは思わない。
 新羅が「帝人君っ」とひきつった声を上げるのを意識の外で聞きながら、自分から出る影をネットのように広げ床に叩きつけられる直前の杏里を救う。
 眼鏡がはずれたのを直しながら不思議そうな顔の杏里は静雄と目が合うと「すみません」と頭を下げる。
 瞳は赤い。手には刀。異様だったが何でもないことのように起きあがりセルティに礼を言う。
 新羅の表情が憎悪に染まるのを帝人だけが見ていた。内心で(臨也、大人しくしてくれよ)と思いながらため息をつく。
 帝人の中にいてすら新羅の優先順位はセルティと自分だ。最終的に自分の身体とセルティとの愛の巣に傷がつかなければ気にしない。
 起こったことを簡単に言えば、杏里が静雄へ切りかかり吹き飛ばされた。

 ただ、それだけ。

 それだけのことだが赤い瞳と刀は静雄に一つのことを連想をさせたし、他の三人はその刀がなんであるのか知っていた。
 この場で知らないのは刀を携えた杏里の中にいる帝人だけだ。
 セルティの横、新羅の後ろにある黒い繭から音がした。
 コツコツから徐々にガンガンと響く音。
 セルティは繭の中からおぼろげに外が見えるようにしていた。杏里を不安がらせないための善意だったが、生憎と裏目に出た。
 今の自分の肉体、具現化している刀、危惧していた破滅、竜ヶ峰帝人のこと、頭に浮かぶのは「どうにかしなければ」という杏里にとって当然の考え。
 自分が今、臨也の肉体であるなど忘れている。
 落ち着かせようとセルティは『杏里ちゃん、ちょっと待って』と打ち込み、それを見せるために黒い繭の一部を開く。よく考えれば、隙間を空けずとも杏里には見えていたのだが、セルティもまた冷静ではなかった。
 こぼれる悲痛な声。臨也の声。
「っ帝人君、大丈夫です、か? さぃ、」
 全てが言い終わる前に黒い繭にテーブルがぶち当てられる。
 静雄だ。
作品名:入れ替われれれ!! 作家名:浬@