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そこにある言い訳

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 徹ちゃんとキスをした。
 お互いがそういうことに興味のある年頃だとか、雰囲気がそうだったとか、なんとなく勢いだとかそういった言い訳がましいことはどうでもいい。意図はどうあれ、そこに事実としてそれが存在することが。
 おれ達がキスをしたということ。前提がそこだ。それを前提としてその後のことの方が重要であり考察してしかるべきであり、僅かであっても変化が生じるはずだ。態度とか空気とか雰囲気とか。何か肌で感じるものとか。
 少なくとも、おれはそう思っていたはずなのに。
 何も変わらなかった。初夏の日差しが出したばかりの半袖から伸びた腕をじりじりと焦がしているように。おれの胸の中では変な焦りのようなものが燻っていた。
「夏野」
 と徹ちゃんが後ろから呼ぶ。
「名前で呼ぶなよ」
 とおれが言う。追いかけてきた徹ちゃんは、苦笑いと仕方ないな、の間のような表情でおれの頭を撫でた。顔が近い。肌が触れ合っているわけでもないのに、体温が感じられそうだと思った。今までそんなこと意識したことも無かったのに、急にそれが気になる。そして何も変わらないかのような徹ちゃんの態度にも。
 あんなものは事故みたいなもので、大したことじゃないから、もう徹ちゃんの中でもなかったことになってい 
るんだろうか。それとも忘れたいことになっているのか。
「今日後で、おれんち来るか?」
 そう言って笑いながら、新しいゲーム買ったからさ、という徹ちゃんからは他意を感じることは出来なかった。
 おれは言葉無く、頷く。そしてもやもやとしたものを抱えたまま部屋を訪ねた。
 やるか、と勧められたコントローラーを断って、おれはベッドに陣取る。一段高い場所から見下ろす徹ちゃんの背中はいつもと同じものだ。テレビの画面はよく見えないけれど、やや派手なクラッシュ音が耳に入った。
 徹ちゃんが立ち上がった。飲み物でも取りに行くのかと思えば、ベッドに腰掛けるおれの前に立ちふさがる。
 当然、座ってるおれよりも徹ちゃんの頭のほうが上にあるわけだからそれを見上げるように顔を上げて。顎をやや上に向ける。照明を背中に背負った徹ちゃんの顔には影が落ちている。日が伸びたといってももう暗いな、などと思っていたらその顔がゆっくりと降りてきた。
 息を飲む。息が止まる。
 そういえば昨日。
 キスを仕掛けたのはどちらからだっただろうか。
作品名:そこにある言い訳 作家名:しの