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つめきり3

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「失礼します」
 入室と同時に目に入ったのは爪切りだった。
 椅子に座る皇帝陛下に。ルルーシュに。明日の予定の変更を伝えながら、僕の目は捉えたものとそこから引き出される記憶で満たされていく。記憶の中に懐かしさを見出すほど長く生きたわけじゃない。それでも、濃密な過去はお互いの何もかも、それこそ生きる意味においてまで影響するほどのことがあった。
 未だお互いに遺恨が全く無いわけではない。それでも同じ方向を向いているということに、全く喜びが無いわけじゃない。
 そのことに後ろめたさすら感じるけれど。少しくらい、いいじゃないかと過去に埋めてきたはずの感情が頭を出そうとするんだ。 もう十分に苦しんだ。少しくらいいいじゃないかと思うのは僕の甘えなんだろうか。そうなのだろうと思う。どこかで、この苦しくて甘い状況に。これがどのくらい続くものなのかをわかっているが故に。
 そのタイムリミットを。
「スザク?」
 怪訝そうな顔のルルーシュがそこにいた。今の自分の立場、今までのこと、これからのこと。ぐちゃぐちゃになった何か。悲しみ、苦しみ。突き抜けるような憎しみ。
 それでも。君がそこに存在している限りは切り落とせないであろうそれを、僕は常に内包している。
「爪を、切っていたんだ」
 ルルーシュの視線が泳いで、僕の顔から逃げていく。言いたいことの意味がわからなくて首を傾げたら。手を、取られた。
 ルルーシュの左手が僕の右手を持ち上げて、視界に入る場所まで掲げる。騎士がその手の甲に口付けをするときのように。もちろん、ルルーシュの意図は別のところにあるのだろうとは思っても、跳ねた心臓は平静に戻ろうとはしてくれない。
 ルルーシュ、と口にしようと思ったら、口の中が乾いて狭くなっていて喉が開かない。
 ルルーシュの指先が、僕の爪の長さを確認するように一本一本辿っていく。その時間が酷く長いものに感じられて。自分がどうするべきなのかを考えることが出来ない。
 何故こんなにも息苦しくて、身が引き絞られるようになるのかわからなかった。自分の中の後ろめたい感情が今、僕を責め立てようとしているような気がして。
 それをルルーシュにも気取られているような気がして。何か言い訳をしたくなったけれど言葉は見つからない。
作品名:つめきり3 作家名:しの