二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

遠い日の歌

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
その車は、セントラルシティの中心街からやってきた。民家より畑や森の多い郊外の道を、トラクターや耕作馬やそれを操る人たちに見送られ、車は高く白い塀に囲まれた一軒の屋敷の門へ吸い込まれていった。
 長い道をゆっくりと進み、途中庭の手入れをしていた家人の指示で玄関脇のスペースに車を止めた。家人がドアを開けると、中からプラチナブロンドの老婦人が下りてきた。
「貴方がたはゆっくりおいでなさい」
 そう車の中に言うと、婦人は案内を請わず中庭へ続く小道へ向かった。



 午後の陽射しが庭いっぱいに降り注ぎ、若葉の生い茂る木々や草花が宝石のように輝いて見える。テラスとの境の窓を開けさせ、ロイは揺り椅子にもたれたままそれを眺めていた。時折、暖かな匂いの風が時代を刻んだ頬を撫でていく。
 軍を退役してもうどのくらいになるだろう。同期も部下も年々減っていき、彼は親友の妻を看取ると同時にここへ移り住んだのだった。自分と家の面倒を見るために使っている者が一人いるだけで訪う者も少なく、錬金術やこれまでの軍史の編纂をしたり読書をしたり、天気と体調の良い日には庭いじりや散歩をして、毎日をそんな風にすごしている。
 今日は天気も気分もよかったが、動きたくないので昼食の後、ロイは日向ぼっこを決め込んだのだった。
 と、窓から見える低木の垣根の辺りから人が入ってきた。先程車でやってきた婦人なのだが、ロイは思い出すのに少し時間がかかった。
「おじさま」
 婦人はロングスカートの裾をたくし上げて嬉しそうにテラスの階段を駆け上がり、ロイの首へ抱きついてその皺だらけの頬に口付けをした。それでロイもようやく思い出せたらしく、彼女の白い頬に口付けを返す。
「ご無沙汰をしていますわ、ご機嫌はいかが?」
「とてもいいよ。久しぶりだねエリシア、元気だったかい?」
「もちろんよ、私から元気を取ったら何が残るの?」
 そう言って、親友の愛娘は会わない間に皺の増えた目元をふっと細めた。
「ははは、相変わらずお転婆なことを言う」
「お転婆は失礼よ、おじさま」
 すまんすまん、とロイはエリシアの顔を両手で包んだ。自慢だったブロンドに混じる銀髪は、時は彼女にも等しくあったことを語っていた。
作品名:遠い日の歌 作家名:gen