遠い日の歌
「あの子達に、なにか残せたとおもうか」
ふと目を開けて、窓際で腕を組んでいるヒューズに呟いた。
「愛されているじゃないか。今更形にしてほしいのか?」
「そういうわけではないが」
ロイは士官学校の校歌を口ずさんだ。今はもう歌われることのない、古い言葉の歌だ。ヒューズが部屋に入ってきて、歌を続けた。
「こんなことを聞くのは悪いと思うが…お前はどうだった?」
「後悔はしてないさ。ただ俺の手で、もっともっとグレイシアとエリシアを幸せにしてやりたかった。それだけ」
「…すまなかった」
「お前のせいじゃないよ」
ロイはヒューズの手を借りて立ち上がった。窓際まで行くと、月明かりに照らされた庭が一面白く光っていた。
「いい夜だ……そろそろ行くか?ロイ」
「ゼリアには約束を破ってしまって悪いが…行こうか、マース」
「うん、行こう、ロイ」
「行こう、マース」
二人は学生の頃にそうしたようにお互いの肩を組んで歩き出した。思い出話の代わりに古い歌を口ずさみながら。