逃れられない理
始り
永遠とは、どこにある?
どこに存在し続ける?
必ずくる別れに、僕は耐えられるのか?
窓からのぞく殺風景な風景。木枯らしが吹いて木の葉を揺らしては、葉をさらっていく。
己の腕に視線を映せば、点滴を打たれたこれまた小枝のように皮と骨しかない腕。なんとも醜い。
チューブをたどっていけば、ぽたりぽたりと規則正しく液体が零れている。
いったい己はあとどれくらい生きられるのだろう。こうやってただ存在し続けているだけなら、いっそのこと殺してくれた方が楽なのに。
だって、こうしてただぼんやりとしているだけでお金は湯水のごとく消えていくし、誰かのために生きることも、力をかしてやることもできない。何もできないのに。
この頃は誰も見舞いに来なくなり、話すのは掛かり付けの医者か看護婦だけ。それらも同じようなことしか言わないから、いつしか僕は『話す事』を放棄した。だからもう自分がどんな声だったのかさえ今は思い出せない。
今日も変わらず、殺風景な代わり映えのしない窓の外を眺める。
いつもと変わらない、何の変哲もない僕の日常。それが、今日、初めて覆された。
「こんにちは。竜ヶ峰帝人くん」
僕を見下ろす黒ずくめの人が手を差し出してきた。けれど、僕は腕を動かすこともできないし、話し方さえ忘れてしまっていたから、首をこくりと動かすだけだった。そんな失礼極まりない僕の態度を気にしていないのか、黒ずくめの男は『俺はいざや。のぞむなりと書いて臨也。よろしくね』と言いながら笑った。
僕はこの人の笑顔を、優しい笑みだと思った。顔はにやにやとしているし、どこをどう見ても気質の人には見えなかったのに、僕の直感はそう告げていた。
「で、どうして俺がここにいるのか知りたいよね?」
臨也さんはにこにこと笑いながら、僕が先ほどから思っていた疑問に対して答え始めた。
要するに、僕の病気はとても希なもので、それを治すことができたなら、これからの先端医療にとって大きな先駆けになるかもしれないと言うことだそうだ。
(ようは体のいいモルモットってことか・・・)
暗にそう言われても、別に僕はなんとも思っていなかった。ただ、ああこれで僕も誰かの役に立てるのか、ということぐらいだ。
今まで誰の役にも立たなかった己が、全く知らない不特定多数の人間の力になれると思うと、自然と笑みがこぼれる。たとえそれが犬死にでもかまわなかった。
「何を笑っているの?」
不思議そうにこちらを眺めてくる臨也さんに僕は苦笑を漏らして見せた。何でもないと、気にしないでほしいという意思表示で首を横に振る。
「そう?まぁ、いいけど。じゃぁ君はこれから俺の病院に来てもらうから、明日移動ね」
もはや決定事項なのだろう、彼の病院と聞いて内心驚いた(医院長か何かだったのか。あっち関係の人かと思った)が、僕は了解というつもりで首を縦に振った。