晩餐
『ほんとうにきてくれるんだ。うれしいな~wwwwあたしね、『babies' breath』ってところで料理屋さんやってるんだ。頑張って料理作るから、楽しみにしててね!』
あれほど喜ばれるとは思わなかったが、思い出してみると少しこそばゆいが嫌な気分ではなかった。
「あれほどの引っ込み思案が、まさか店をやっているとはな・・・。」
最初出会ったとき、クレスは琥流栖の第1印象は「儚げで弱そうな娘」といった感じだった。自分が悪態ついたり嫌味を言えばすぐにうつむいたり、「ごめんなさい」と謝ったり、挙げ句の果てには泣きそうな顔になったりと、今まで外に出たことがないような箱入りのお嬢様のイメージがあったのだが。
「人は見かけによらないもの・・・・か。」
自分もそういう存在だというのに、人とあまり関わらないのですっかりそのことを忘れていた。
「・・・・・・・・。」
バイオリンをケースにしまい。身支度を整える。店をやってるとしたらどんなものを作っているのだろうか。何となくそのことが気になる。
孤児院ではあまりたくさんの食事をとることができなかった。ある程度に食べられ、バイオリンを教わることなど普通の身寄りのない子供にとってはありがたい話だったのだろうが、やはり何だか物足りないものがあった。
何を頼んでみようか。やっぱり甘いものを頼もうか。だが、デザートは最後に食べるほうがおいしいかもしれない。
それにしてもなぜだろう。他人の領域に入り込むというのに、こんなことが考えられるなんて。
甘いものが食べられるからだろうか。それとも、あの子に会うことができるからだろうか。この何千何万とある世界の中で自分の音を聞いて『また聞きたい』と言ってくれたあの女の子に。
「・・・・・考えても拉致があかないな。」
クレスは意を決し、Capsicum島へ空間移動した。Capsicum島につくとシロツメクサの生えた野原に足が付いた。りヴリーの世界は基本、飼い主の部屋があり、りヴリーの住む島がある。昔は別世界へのゲートがあったらしいのだが、今は一本通行の道しかないそうだ。
「どうやっていけばいいんだ・・・・・;」
島に着いたはいいが、店にはどうやっていけばいいのだろうか。
「・・・・・ん・・・・?」
島の近くには看板があるが、まさかそこに書いてあるのだろうか。実際に見てみると書いてあった。
『ばしょはhttp//・・・・だからね。にゅうりょくまちがえないでねw』
「・・・・・・・・。」
「入力」をせめて漢字で書いてくれ。なぜ平仮名なんだ・・・・。
こういう方法で移動して別の空間で店をやったりする者もいる。だが、この方法はなんともない人と、心身共にかなり負担がかかる人がいるそうだ。ちなみに自分は前者の方である。そうでなければ、こういう空間には向かわない。
異空間に着く。すると3階建ての洋館のような建物が少し先に見えた。だが、近づいていくとそれは廃屋に見える。と言うよりこの建物のぼやけ具合からして廃屋にしか見えない。
「・・・・・・・・・。」
大丈夫なんだろうか。少し不安になってきた。
「・・・・・・・はぁ・・・・・・・。」
うだうだ考えてもしょうがない。自分が行くと決めたのだからここに来たのだ。約束は守らなければならない。男として腹をくくらなければ。
そう思い廃屋へクレスは向かっていく。すると、
「あれ、あんた誰?客?」
不躾な話し方で話しかけてくる少年がいる。背は男にして小さく(人のことは言えないが)少し華奢な印象があった。
「・・・・営業員だとしたら客の私に向かってその口のきき方はないのではないか?不躾にもほどがあると思うが。」
「ずいぶん棘のついた言い方だな。百歩譲って俺が営業員だとしてもあんた見たくに高飛車そうな姉ちゃんに笑顔振り撒く気にはなんないね。」
「はっ、貴様の目は節穴か。私は男だ。バカめ残念だったな」
「じゃあ訂正する。百歩譲って俺が営業員だとしてもあんたみたいに偉そうな野郎に笑顔を振りまく筋合いはないね。」
「減らず口もそれくらいにしておけよ。小童が。」
「あんたがその態度改めるんなら考えとくよ。」
ものすごく険悪な雰囲気が辺りを包みこむ。
(なんなんだこの子供は・・・・・!)
クレスは踵を返し帰ろうとしたときである。
「おーい、待って、待って!」
あわてて男が走ってやってきた。
「すみません、この馬鹿が本当に。ほら、謝るんだ夏果!」
「いてぇ、話せよ!この鳥もどき!」
男は夏果という少年の頭をひっつかみ、無理やり頭を下げさせた。
「もう少し子供のしつけをきちんとやっておいたほうがいいんじゃないのか。貴様」
「はい、もうごもっともです。なかなかしつけても、このはねっ返りは・・・・・。」
「誰がはねっ返りだよ!くそが!ちきしょう覚えてろよ!」
げんこつ食らいながら夏果という少年は逃げて行った。
「・・・悪かったな。あれにはおれも手を焼いてるんだ。」
「・・・・・・子供の前だけなのか?貴様の丁寧口調は。子供の教育方法もたかが知れてるな。」
「わるいね。それに俺はできるだけナチュラルに人と接する主義だからw」
「・・・・・口調を子供の前だけで変えるうえに名を名乗らない奴にナチュラルも何もないと思うんだがな、私は。」
「おっと、こりゃ失礼した。俺は楽太郎ってものだ。よろしくな。」
握手の手が差し出されたがクレスはそれを払った。
「ありゃ」
「ふん・・・・貴様と戯れる暇はない。私はさっさと店に行かなきゃならんのだ。」
「・・・・・・へぇ。あんた本当に客だったんだ。そりゃ悪いことしちまったな。あんた見たくにこぎれいな人がまさかこんな店に来るなんて思わなかったからさ。」
楽太郎は改めて謝罪した。夏果が去った方角を目で追い、言った。
「俺が一応従業員なんだ。で、あれはただの付き添い。」
「・・・・なぜただの付き添いが店の前にいるのだ。ここは託児所か。」
「・・・・・まあ、似たようなもんだ。」
「・・・・・・どういうことだ。」
怪訝な顔をするクレスに、楽太郎はにかっと笑い、
「まぁ、そりゃ見てのお楽しみさ。こちらですよ。お客様。」
そう言い、楽太郎が扉を開け、店の中へ案内する。
「それに・・・・・あんたみたいな人がなんでうちの店に来たのかも知りたいしね。」
「・・・・・・・・・。」
クレスは疑いのまなざしで楽太郎を見つめながら言った。
「私は、ある娘に曲を聞かせたくてやってきた。・・・それだけだ。」
扉がだんだんと閉まっていく。
「ふーん…・・恋の吟遊詩人ってやつかい?」
「勝手に想像していろ。貴様のような奴と話しても無駄だとわかったからな。」
「・・・やれやれ・・・・・お客さん一人ご案内です。」
扉が完全に閉まった。
中に入ると清潔な店内が目の前にあった。クレスはわが目を疑った。
「・・・どういうことだ。」
楽太郎は肩をすくめながら説明する。
あれほど喜ばれるとは思わなかったが、思い出してみると少しこそばゆいが嫌な気分ではなかった。
「あれほどの引っ込み思案が、まさか店をやっているとはな・・・。」
最初出会ったとき、クレスは琥流栖の第1印象は「儚げで弱そうな娘」といった感じだった。自分が悪態ついたり嫌味を言えばすぐにうつむいたり、「ごめんなさい」と謝ったり、挙げ句の果てには泣きそうな顔になったりと、今まで外に出たことがないような箱入りのお嬢様のイメージがあったのだが。
「人は見かけによらないもの・・・・か。」
自分もそういう存在だというのに、人とあまり関わらないのですっかりそのことを忘れていた。
「・・・・・・・・。」
バイオリンをケースにしまい。身支度を整える。店をやってるとしたらどんなものを作っているのだろうか。何となくそのことが気になる。
孤児院ではあまりたくさんの食事をとることができなかった。ある程度に食べられ、バイオリンを教わることなど普通の身寄りのない子供にとってはありがたい話だったのだろうが、やはり何だか物足りないものがあった。
何を頼んでみようか。やっぱり甘いものを頼もうか。だが、デザートは最後に食べるほうがおいしいかもしれない。
それにしてもなぜだろう。他人の領域に入り込むというのに、こんなことが考えられるなんて。
甘いものが食べられるからだろうか。それとも、あの子に会うことができるからだろうか。この何千何万とある世界の中で自分の音を聞いて『また聞きたい』と言ってくれたあの女の子に。
「・・・・・考えても拉致があかないな。」
クレスは意を決し、Capsicum島へ空間移動した。Capsicum島につくとシロツメクサの生えた野原に足が付いた。りヴリーの世界は基本、飼い主の部屋があり、りヴリーの住む島がある。昔は別世界へのゲートがあったらしいのだが、今は一本通行の道しかないそうだ。
「どうやっていけばいいんだ・・・・・;」
島に着いたはいいが、店にはどうやっていけばいいのだろうか。
「・・・・・ん・・・・?」
島の近くには看板があるが、まさかそこに書いてあるのだろうか。実際に見てみると書いてあった。
『ばしょはhttp//・・・・だからね。にゅうりょくまちがえないでねw』
「・・・・・・・・。」
「入力」をせめて漢字で書いてくれ。なぜ平仮名なんだ・・・・。
こういう方法で移動して別の空間で店をやったりする者もいる。だが、この方法はなんともない人と、心身共にかなり負担がかかる人がいるそうだ。ちなみに自分は前者の方である。そうでなければ、こういう空間には向かわない。
異空間に着く。すると3階建ての洋館のような建物が少し先に見えた。だが、近づいていくとそれは廃屋に見える。と言うよりこの建物のぼやけ具合からして廃屋にしか見えない。
「・・・・・・・・・。」
大丈夫なんだろうか。少し不安になってきた。
「・・・・・・・はぁ・・・・・・・。」
うだうだ考えてもしょうがない。自分が行くと決めたのだからここに来たのだ。約束は守らなければならない。男として腹をくくらなければ。
そう思い廃屋へクレスは向かっていく。すると、
「あれ、あんた誰?客?」
不躾な話し方で話しかけてくる少年がいる。背は男にして小さく(人のことは言えないが)少し華奢な印象があった。
「・・・・営業員だとしたら客の私に向かってその口のきき方はないのではないか?不躾にもほどがあると思うが。」
「ずいぶん棘のついた言い方だな。百歩譲って俺が営業員だとしてもあんた見たくに高飛車そうな姉ちゃんに笑顔振り撒く気にはなんないね。」
「はっ、貴様の目は節穴か。私は男だ。バカめ残念だったな」
「じゃあ訂正する。百歩譲って俺が営業員だとしてもあんたみたいに偉そうな野郎に笑顔を振りまく筋合いはないね。」
「減らず口もそれくらいにしておけよ。小童が。」
「あんたがその態度改めるんなら考えとくよ。」
ものすごく険悪な雰囲気が辺りを包みこむ。
(なんなんだこの子供は・・・・・!)
クレスは踵を返し帰ろうとしたときである。
「おーい、待って、待って!」
あわてて男が走ってやってきた。
「すみません、この馬鹿が本当に。ほら、謝るんだ夏果!」
「いてぇ、話せよ!この鳥もどき!」
男は夏果という少年の頭をひっつかみ、無理やり頭を下げさせた。
「もう少し子供のしつけをきちんとやっておいたほうがいいんじゃないのか。貴様」
「はい、もうごもっともです。なかなかしつけても、このはねっ返りは・・・・・。」
「誰がはねっ返りだよ!くそが!ちきしょう覚えてろよ!」
げんこつ食らいながら夏果という少年は逃げて行った。
「・・・悪かったな。あれにはおれも手を焼いてるんだ。」
「・・・・・・子供の前だけなのか?貴様の丁寧口調は。子供の教育方法もたかが知れてるな。」
「わるいね。それに俺はできるだけナチュラルに人と接する主義だからw」
「・・・・・口調を子供の前だけで変えるうえに名を名乗らない奴にナチュラルも何もないと思うんだがな、私は。」
「おっと、こりゃ失礼した。俺は楽太郎ってものだ。よろしくな。」
握手の手が差し出されたがクレスはそれを払った。
「ありゃ」
「ふん・・・・貴様と戯れる暇はない。私はさっさと店に行かなきゃならんのだ。」
「・・・・・・へぇ。あんた本当に客だったんだ。そりゃ悪いことしちまったな。あんた見たくにこぎれいな人がまさかこんな店に来るなんて思わなかったからさ。」
楽太郎は改めて謝罪した。夏果が去った方角を目で追い、言った。
「俺が一応従業員なんだ。で、あれはただの付き添い。」
「・・・・なぜただの付き添いが店の前にいるのだ。ここは託児所か。」
「・・・・・まあ、似たようなもんだ。」
「・・・・・・どういうことだ。」
怪訝な顔をするクレスに、楽太郎はにかっと笑い、
「まぁ、そりゃ見てのお楽しみさ。こちらですよ。お客様。」
そう言い、楽太郎が扉を開け、店の中へ案内する。
「それに・・・・・あんたみたいな人がなんでうちの店に来たのかも知りたいしね。」
「・・・・・・・・・。」
クレスは疑いのまなざしで楽太郎を見つめながら言った。
「私は、ある娘に曲を聞かせたくてやってきた。・・・それだけだ。」
扉がだんだんと閉まっていく。
「ふーん…・・恋の吟遊詩人ってやつかい?」
「勝手に想像していろ。貴様のような奴と話しても無駄だとわかったからな。」
「・・・やれやれ・・・・・お客さん一人ご案内です。」
扉が完全に閉まった。
中に入ると清潔な店内が目の前にあった。クレスはわが目を疑った。
「・・・どういうことだ。」
楽太郎は肩をすくめながら説明する。