晩餐
「ここにはね、料理を食べるためだけのレストランではないの・・・・・。みんなが楽しく過ごしたいと思ってくるレストランでもあるの・・・・・。」
みんなが黙って聞いている。グリスは琥流栖はなんだか自分と同じ雰囲気があったのでそれがいっぺんに変わったことに驚いていた。
「今あなたたちをここで招きいれたら、ただの食べるだけのレストランになっちゃうんだ・・・・。」
すると子供たちが、
「そんなのやだ!」
「爪太郎が話すお話がきけなくなるなんてやだ!」
すると、琥流栖は微笑んで、
「でしょ・・・・?だから、開店した時に来て・・・・?お礼はその時にするね・・・・。」
子供たちの頭をなでながら、琥流栖はいった。「ほんと?」と子供たちが目を輝かす。
「うん・・・・・ほんとうよ。」
「やくそくだかんな!」
ええ、やくそくよと琥流栖は子供たちと指切りげんまんした。子供たちは「やくそくだからなー」と言いながらに帰って行った。
子供達がいなくなると、琥流栖はすっと振り返った。
「・・・・・ようこそいらっしゃいました、グリスさん。『babies' breath』へようこそ・・・・・。私たち従業員は、心からあなたを歓迎いたします・・・・・・。」
そう言いながらお辞儀をする。グリスは少し照れながら言った。
「えへへ・・・・・ありがとうございます^^」
「それでは営業員専用の入り口を案内しますね・・・…ついてきてください・・・・。」
そういうと琥流栖は正面のい入り口から移動を始める。グリスもそれについていった。
ついていくとそこは庭だった。様々な花が咲いている。
「うわぁ・・・・・きれいだなぁ・・・・・。」
「でしょ・・・・・?ここにはミモザと、木蓮、こぶし、白バラとカスミ草。あといろんなハーブと野草が生えてるの。ハーブとか野草は料理に使ったりするから・・・。」
「そうなんですか・・・・・。」
「あと・・・・・それから・・・・・。」
「?」
グリスと琥流栖が裏口らしい付近に到着すると、琥流栖はグリスの手を握る。
「ふぇ・・・・?・・・・どうしたんですか?」
「・・・営業員さんは、この手に合言葉を書くようになってます。この庭の花のどれか。それを合言葉としてこの手に書いてください・・・・。」
「・・・・・うーんと・・・・エーっと・・・・じゃあ…・白ばらで・・・。」
「・・・・それじゃあ、白バラの花言葉をここの手に書いてください・・・。花言葉は・・・・・・。」
ちょっと押し黙ってしまった。どうしたというのだろう。
「どうしたんですか・・・・?」
「いえ・・・…ちょっと気恥ずかしくて・・・・・・。花言葉は『あなたを愛してる』
と、『恋、愛』って意味・・・だから・・・・。」
「そうなんですか・・・・・。でも、いい言葉じゃないですか・・・・・・。」
ふわっと笑いながらグリスは言った。琥流栖もそれにつられ微笑んだ。
「・・・・そうですね・・・・・・。それでは、合言葉をお願いします・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
指で合言葉を書く。そして、琥流栖はすっと手を離した。
「それでは、入りますね・・・・・。」
ぎいぃ、と扉が開くと、光がグリスたちの体を包んだ。
「っわぁ・・・・・!」
「・・・・・・・・・・。」
気が付くとそこは、玄関のような場所だった。
「さっきまでは古い廃屋かと思ったのに・・・・。」
「・・・・具現の力によってこの空間は成り立っているんですよ・・・。この空間が誰かの心にとどまらなくなると別の姿になるんです。」
微笑みながら、「厨房に案内しますね・・・・。」と言われ、グリスはあわてて後ろについていった。
厨房らしき場所に着いたようだ。なかなか広い厨房だと思った。さっきの廃屋からは想像がつかなかった。
「広いですねぇ・・・・。」
「クスクス・・・・・。あ、そういえば・・・・・。」
琥流栖は思いだしたようなしぐさをしグリスに質問した。
「あなたはどんな料理が得意ですか・・・ケーキとか・・・・できますか・・・?」
グリスはその質問に快く答えた。
「はい・・・・、家事とかなら基本なんでもできますよ?」
「あの・・・・・お願いがあるんですよ・・・・。」
琥流栖はうつむきながら言う。
「なんですか・・・?」
「えっと・・・・その・・・・・・わたし・・・・ご飯は作れるんですけど・・・・お菓子・・・・作るの苦手で・・・・・。」
だんだん声が小さくなっていく。
「作るのを・・・・その・・・・・手つだって・・・・ほしいん・・・・・・・ですよ・・・。」
最後あたりはほとんど聞こえないくらい小さかった。だが、何となく言いたいことがグリスは分かった。
「わかりました・・・・それじゃあ、何をつくりましょうか。」
「えっと・・・・今日お客さんが来るのですが・・・・・その人・・・・甘いものが好きで・・・・・苺のロールケーキを作ろうと思うんですが・・・・・。」
「それじゃあ、まずスポンジからつくりましょうか・・・・・。」
うつむきながらクルスは「ごめんなさい・・・・」といった。グリスは首をかしげ、訪ねた。
「どうして謝るんですか?」
「だって…・・・手間をかけさせてしまったのではないかと思って・・・・。」
グリスはそんな姿の琥流栖を見て、思わずぎゅっと抱きしめていた。
「ふぁっ・・・・・・・・!?」
「ふふっ・・・・・かわいいですー・・・・・・。」
「え・・・・えっと・・・・。」
「迷惑だなんて思ってませんよー。一緒に頑張りましょう。」
そう言いながら、グリスは抱きしめたまま頭をなでた。
「きれいな髪ですね・・・・。なんだかいい香りもしますし・・・・。」
「・・・・・・・・・んっ・・・・!」
琥流栖は小さい声で「離してください」と言った。
「わかりましたー。」
グリスは琥流栖を解放した。琥流栖は顔を赤くしつつ、取り繕うようにあわてて言った。
「ケーキって時間がかかるみたいですし、早速作りましょうか!」
「はい。がんばりましょうー。」
そうして、二人のケーキ作りが始まったのだった。
ー続く―