二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
さらんらっぷ
さらんらっぷ
novelistID. 17853
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

海の薔薇

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
第一話

 凍える空気の中、全ての星の光さえ遮るような満月の光が彼らの影を砂漠に躍らせた。
まるで絹のような光沢を持った銀糸の一本一本さえ月は見逃さず影を作らせた。そして、それを追う野蛮で粗悪な臭いを纏った男たちの影も月は等しく作り出した。
 銀糸と交わり、影は交差する。瞬間、飛び散った黒い雨。月が影を作り出す暇もなく、雨は砂にしみ込み、砂に隠れた。男たちの影は小さくなり、銀糸はまた影を躍らせ月下を駆け抜けた。
 銀糸の行方を知るものはいない。いるとすれば、あの月だけなのだ。


 砂漠の国は灼熱を以って生者の精力を奪い、時には極寒を以って死者を凍りづかせた。それはまさに煉獄のような炎、それはまさにコキュートスのような氷。
 この地に降り立ちすでに一ヶ月、慣れもあれば未だに慣れぬものもある。源田は絶え間なく滴り落ちる汗を拳で拭えど、拭いきれるものではなかった。彼はこの国から見て、海を越え、山岳を越えた遥か北東の国の出身のため、いつまで経ってもこの暑さには慣れなかった。
 小さいながらも栄えている街の宿を出て、久々の休日を源田は満喫していた。交易場として栄えているらしい街のあちこちには行商人が多く、行き交う言葉もこの国だけのものではなかった。街を歩けば一番の大通りにはそれぞれが仕入れた生活の道具を絨毯の上に並べ、座り売るものたち。木の箱の中にはたくさんの果物、たまに誰かが拝借してそれを追いかける店主。源田の足元を子供が走って通り過ぎる。我こそはスルタンぞ!控えよ!子供たちは元気に遊んでいた。
 小腹が空いた源田はパンに肉を挟んだ簡単な食事を売っている店からそれを一つ買い、歩きながら食事した。たまに自分の仲間が街の中を闊歩している様子も見えたが、娼婦につかまってどうしようか悩んでいるところだった。まじめな奴になると乞食――にしか見えないのだが、賢人として崇められている人から直接、話を聴いてこの国の作法を勉強しているようだった。彼ら賢人はそういう話を提供する代わりにお金や食料を貰って生計を立てている。
 食事を平らげた源田は大通りから路地裏に入る。そこには本当の乞食が座り込んでいる。建物で遮られ、太陽の光の熱はいくらか緩和されている。改めて汗を拭うがやはり滴り落ちてくる。髪の毛にも汗が絡み、いっそのこと丸坊主にでもしたくなる。
 冗談でそんなことを考えていると、自分の上司を思い出しふと笑みがこぼれた。上司は休みの日くらい、といい宿にいる。自分は休みの日くらい、と街に出てぶらぶらする。実際、こちらに来てから街に来ることはもちろんあるが、彼らの目的にはこの国の地下に眠る物資の確保があった。そのため、国の者たちですら立ち入ったことのない、未開の地へと足を運び続けた。命の危険は星の数ほど、しかし不思議のこの一行は病気にもかからず、平穏無事に過ごせていた。
 そろそろ大通りの戻ろうと源田は角を曲がろうとしたとき、路地裏の奥から土煙を立てて走ってくる影が見えた。光が遮られた場所でありながらも、きらきらと光る銀糸が風に乗りふわりと舞った。銀糸の持ち主は源田に盛大にぶつかった。
「なんだ!」
銀糸を持った人間は叫び声すら上げず、明るい橙の瞳で源田を一目する。そして勢いよく源田の胸を押し自分は大通りに走り去った。呆気にとられた源田は路地裏に立ち尽くすと、先ほどの人物を追いかけているのであろう黒い装束に暗い赤で染め上げられた布で顔を隠した集団が源田の目の前を曲がって大通りに出て行った。
 只事ではない、源田は持ち前の直感でそう思い、彼らの後を追った。そして、左腰に携えていた刀の鞘を握った。
 大通りは先ほどの打って変わり悲鳴が上がった。それも、常に前から聞こえるところから見てあの集団と銀糸の人物は自分の目の前を走っていると源田は確信した。
「どいてくれ!すまない、危ない……!!」
集団が去った後の道を塞いでしまう人々の垣根を押しよけ、ようやく赤い頭巾が見え始めた。彼らは見境なく突進し、道端は果物が散乱し果汁が飛び、土埃が盛んに源田の目を襲う。
 住人や行商人と激しくぶつかりながら、時には障害物を飛び越え彼らの後ろに追いついた。
「観念しやがれ尻軽!もう逃がさねぇ!」
汚い言葉を吐きながら男たちが銀糸の人物を囲む。改めて見たところ、少女のように源田には見えた。
「往生際が悪いぜ、大人しくこっちに来るんだ。さもなきゃてめぇをこの大衆の目の前で丸裸にしてやってもいいんだ!」
周りの仲間も囃し立て、剣を構え少女ににじりにじりと寄った。少女は嘲り、大声で怒鳴った。
「大いに結構!」
「やっちまえ!」
掛け声と共に集団は一斉に突進した。そのわずかな隙間を掻い潜り源田が抜刀した。
「んっ!」
男たちの鈍い叫び声と源田には確かな手ごたえが残った。抜刀したとは言え、切り捨てたわけではなかったので、赤い頭巾の男たちは痛みに喚きながら地べたに這いずった。
 少女は無事なのだろうかと見やると、もうすでに少女は立ち去った後だった。
「源田!何、派手にやってんだよ、バカかお前は!」
「不動……。」
源田の上司、不動明王が部下を引き連れてまだ騒然としている街の大通りに登場した。
「まぁ、よくやった……って褒めといてやるよ。こいつら、札付きの盗賊団の連中だ。それも悪行三昧のな。なんでこんな真昼間にいるんだか、まぁ賞金はありがたく頂くがな。」
あくどい笑みを見せて不動は、部下たちが盗賊たちを捕まえている様子を満足げに眺めていた。
 ところが、盗賊を捕まえていた部下たちが次々に倒れ盗賊たちは身軽にピョンピョンと建物の壁を伝って上り、ついには消えてしまった。一杯、食わされてしまったようだ。
「……にゃろう、逃げ足だけは速ぇ……。」
先ほどと打って変わり悔しそうな顔をする不動に源田は笑いつつ、先ほどの少女の安否を気遣った。盗賊に追われていたところから見て、奴隷だったのだろうか――。商品として彼らの手に渡ったが、逃げて追われた……というところだろうか。
 この国の奴隷の商売は普通に成り立っていた。源田の感覚から言えば「狂っている」ようなものであるが、奴隷と一口で言えど、その種類は様々でまさに肉体労働を強いられるものや、遊び相手として買われる者も多かった。つまりは下級な召使のような存在だった。これは、源田にとってこの国に来てから驚いた事実の一つだった。
 だから、本来はそれに口を突っ込むべきでないが、もし源田の仮説が本当だとして少女が商品で盗賊が売主だとしても、盗賊たちの商売は野蛮なものがおおく、彼らは取り締まりの対象だった。
 源田たち一行はこの国の調査(という名目の資源調達)のため遥か北東の国より海と山を越えてきたわけだが、国に入るときの条件で、彼らのみが使える術たとえば源田なら抜刀術を使い盗賊を始末して欲しいというものだった。盗賊の存在は国にとって目の上のたんこぶだった。

作品名:海の薔薇 作家名:さらんらっぷ