狂い咲き 壱
あれから二カ月……。
僕は今、菊君の隣にいる。
「あー…なんかつまんないね。」
君は窓の外を見たまま。
前―僕らが戦ってたとき―に比べて身体は痩せている。
何を考えているのかな…?
まぁ…アルフレッド君のこととかだろうけど。
あのことがあってから
アルフレッド君はほとんど菊君に会いに来なくなった。
全部、僕の思い通り―――!!
ベッドにギシっと腰掛ける。
そして、無理やり顔をこちらに向けさせた。
「……何するんですか?」
漆黒の瞳には前のような闘争心は宿っていない。
むしろ……安心感。
華奢な身体をギュッと抱きしめてみる。
「……」
「……」
アルフレッド君が来なくなって、僕が来るようになって…
少しずつ君が心を許してくれるようになって…
でも、僕はこの程度では満足しないよ―――
三日後―――
(コンコン)
「はい…?」
「入るあるよ、菊。」
そこにいたのは…私が一番会いたかったあの人……!
「耀さん…」
「傷の調子は、どうあるか?」
入る、と言いつつドアにもたれかかり決して病室に入ろうとしない。
きっとこれは彼のプライド……。
「ずいぶん癒えてきましたが…退院はまだ……」
「あんまり無理しちゃダメあるよ。」
どこまでこの人は優しいのだろう…。
「……耀さん…背中は……?」
「何十針か縫ったある。でももう大丈夫あるよ。」
目は、その琥珀色の目は真っすぐだった。
―――この目は嘘をついていない。
「あの…」
「アルフレッドのことあるな。」
小さいときから彼に悩みを相談しようとすると
決まって先に内容を当てられる。
今回も、そうだった。
「ぶっちゃけた話…あいつがお前を利用してるって話は本当ある。」
もう、やはりそうかとしか思えなかった。
「私の経験から考えて…イヴァンについた方がいいと思うある。
……あくまでも我の考えあるが。」
「……そう…ですか…」
冷たい病院の廊下。
「すごい演技力だね。さすがだよ。」
イヴァン…。
このタイミングで一番会いたくない奴だ。
「多少シナリオとちがうこと言ってたけど。」
「…そんなことで道筋が変わるあるか?」
「まぁ、これで君ともお別れだね。」
―――菊にある嘘をつけば、イヴァンと別れられる。
これが奴に持ちかけられた約束だった。
「外で待ってるんじゃない? アーサー君。」
「あぁ。」
「君とあの子がくっつくなんて…ほんと信じられないよ。」
―――先生は他人ばっかじゃなくて自分の幸せも考えるべき、的な。
香の言葉で決心がついた。
だから、選んだ。
―――菊…お前も選ぶあるよ…