言えない理由
(失敗した)
それもなんていう失敗だろう、と臨也は思う。ひどい失態を演じたという自覚はある。あれで様子がおかしいと思われないはずはない。なんという自分らしくない姿だったろう、と自嘲してみてもおさまらぬ羞恥に頬が火照る。足取りが自然と早まった。
(なんで愛してるって言ってくれないんですかって)
(そんなの、君がそれを本当に本気で望んでいるならいくらだって言ってあげるのにさ!)
好意を告げるからには色よい返事がもらえるという確証が欲しい。愛してると言えない理由はその一点につきる。彼も自分を好いてくれているのでなければ告白できない。想い人の足下に身を投げ出して、ただひたすらに愛を乞うなんて真似が出来るほどにプライドの無い己ではないからだ。
(好きだ、好きだ)
どうしようもなく彼だけが自分の中で特別で苦しい。あの瞳に見つめられただけで口先だけの愛の台詞なんて喉の奥で死んでしまうほどに。
この気持ちは他の人間へのものとは全く異なるものなのだ。彼を愛している、愛している。想うだけでいいなんてとてもではないが思えない。無償の愛など糞喰らえ。この愛には見返りが欲しい、どうしても。好かれたい、愛されたい、自分が彼を愛するのと同じくらいかそれ以上に!彼が自分に振り向いてくれると確信できさえすれば、、全霊をもって受け止める、あるいはかっさらう用意はあるのだ。
羞恥とそれに伴う苛立ちが、臨也の注意力を散漫にさせていた。この後、彼は追いついてきた想い人の少年に声をかけられて、今日何度目かの叫び声をあげることになる。
彼の口から少年への愛が語られることになるのは、さて、いつのことか。