アイツとダンスを
ダンスホールは人であふれていた。
しかし、決して踊れる場所がないわけではなかった。
ホールの中心で組み…ダンスを始めた。
ホップ…ステップ…
正直、ダンスは得意じゃない。
でも、リードくらいは出来るんだぜ!
…
………
……………
こいつのダンス…ひどいんだぜ…。
リードとは逆に行こうとするし…
周りを気にして集中していないし…
最終的に足を踏まれた。
自分でも、得意でないのがわかっているんだろう。
俺に触れている手からは不安が伝わる。
こんなダンス…前にどこかで…
アイツにせがまれて相手をしたことがあった。
互いにダンスなんて踊ったこともなかった。
2人でわからないなりに練習した。
俺はやっていくうちに何とかリードできるようになったけど…
…アイツのダンスは、最後までひどかったんだぜ…。
今のダンスは、そのときのアイツ…そのままだった。
俺はおかしくなって思わず呟く。
「へたくそなんだぜ…。」
言った瞬間…、伏せていた顔を上げるアイツ。
「し…仕方ないでしょう…あの時以来…踊ってないんですから…!」
あぁ…お前も俺だって気付いてたんだぜ…。
「お前の相手なんて、俺くらいしか務まらないんだぜ!
仕方ないから、今日はずっと俺がダンスの相手をしてやるんだぜ!」
「う…言い方が気に食いませんが…よろしくお願いします…。」
悔しそう…でも恥ずかしそうに言うあいつを見たら…
今まで言いたくなかったあの言葉を言える気がした。
「…あの時は…ごめんなんだぜ…。」
「私のほうこそ…すみませんでした…。」
ここ何日間かの悩みはいとも簡単に吹き飛んだ。
そして改めて…俺の中でのアイツの存在の大きさを理解した。
でも…自分から言うなんてやっぱり悔しいから…
まだ…『好き』だなんて言ってやらないんだぜ!