いつまでも、君が怖い理由
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獄寺隼人は、一生の中で、かなりの上位に当てはまると断言できる程の焦りを有していた。
"家に行きたい"という言葉と同時に、再び腕に絡みつく尻尾。当人には見えないというのだから、無自覚に違いないその柔らかさに、思わずその華奢な身体ごと抱きしめてしまいそうになる。そんな己をかき集めた理性で押しとどめ、それから鋭く聡明な人に、この動揺が伝わりませんようにと願いながら、「いいっすよ」と笑いかける。
ただこれだけの事に、獄寺は寿命を何年か減らしたのではないかと思う程の労力を費やした。
「わー!獄寺くんの部屋、かっこいいね!」
「そうっすか?十代目さえ宜しければ、何時でも遊びにいらして下さいね」
掃除をしていた自分を内心褒めながら、危険物の収納された部屋をスルーしてリビングへと案内する。この人が好きそうなものは…と考えながら、冷蔵庫の中身を思い浮かべた。
「十代目。コーヒーと紅茶、あとポカリがあるんですが、どれがいいですか?」
「んー。ポカリがいいな」
「はい」
次回までにはコーラなど用意しておこうと心に決めながら、獄寺は一つしかないグラスに半透明の飲料を注いでいく。グラスも、カップも、どうせなら揃いで新調してしまおう。そうだ、それらをこの人に選んで貰うのも悪くない。そこまで考え、一体どうやってその話を切り出すのか、想像しただけで苦笑いしてしまうのだけれども。
「おまたせしました、十代目!」
「ありがとう」
獄寺にとって、そう言って微笑む笑顔さえあれば、大抵の事はどうでも良くなってしまうのだ。自分の分のコーヒーを淹れたカップをテーブルに置きながら「では、宿題を片しちまいましょうか」と笑いかける。グラスを中身を飲みながら、一瞬眉をしかめ「…数学かぁ」と呟く人が、獄寺は愛しくて、愛しくて仕方がない。
「十代目なら余裕っすよ!」
「…あはは。だといーんだけど」
その苦笑いすら、最高にシブいっす!と感動してしまう獄寺に、先程までの葛藤はどこにもなかった。
貴方が居ればそれだけで
(悩みなど、吹き飛んでしまうのです)
作品名:いつまでも、君が怖い理由 作家名:サキ