いつまでも、君が怖い理由
いつまでも、君が怖い理由
初めはただただ、怖かった。
この人と仲良くなる事は一生無い。
出来たら目も合わせないで過ごそうと思っていた。
「10代目!一緒に帰りましょう!」
「うん。帰ろ、獄寺くん」
それが今では、こうして一緒に下校しているのだから不思議なものだ。
俺は一生仲良くならないと思ってた人と歩いて、くだらない事を話して笑ったり、一生懸命な返事をもらうのがいつの間にか好きになっていた。
獄寺くんはきっと俺の事を"友達"なんて思っていないんだろうけど。
マフィアのボスとしての俺を慕ってくれてるんだろうけど。
俺はね、俺は…君の事――
「10代目?顔色が優れないようですが…どうかしました?」
「うっ、ううん、なんでもない!」
「そっすか?」
俺を見つめてくる緑色の瞳は、宝石みたいにキラキラしてて。
俺の前でだけ優しく笑うものだから、俺はいつも勘違いしそうになる。
獄寺くんにとって俺は、特別なんじゃないかって。
ボスとしてじゃなく、沢田綱吉として"特別"なんじゃないかって思いこみそうになる。
「うん、大丈夫だよ」
「なら、いいんす。何かあったら、右腕の俺になんなりと申しつけて下さいね!」
「あはは…」
つきん、と心臓が痛む音が聞こえてくる。
大丈夫。そう、俺は大丈夫なハズだ。
獄寺くんが笑っている。
ならきっと俺は、まだまだ大丈夫なはずだった。
「ねぇ、獄寺くん」
「はい、何っすか?」
「えーとね、その…」
「はい?」
"手を、繋いでみたいんだ"
そう言ったら、君はどんな顔をするだろうか。
俺のお願いを断ったりしない君は、気持ち悪くても繋いでくれるだろうか。
「…あ、あはは。忘れちゃった」
「そうなんですか?まぁ、良くありますよね」
「うん、ごめんね」
「いえっ!10代目が謝る事なんて何一つありませんよ!!」
君は優しい。
優しくて、分かりやすくって。
「ねぇ、獄寺くん」
「はい」
「…なんでもない」
「今日はどうしたんですか、10代目?」
「んー、ごめん。なんでもないんだ」
「? そっすか!」
「うん」
初めはただただ、怖かった。
今も、そうだね。まだ怖い。
君が俺の"特別"になればなるほど、怖くなるんだ。
"なんでもない"を、どうか"好きだ"に置き換えて
いつまでも、君が怖い理由/end
作品名:いつまでも、君が怖い理由 作家名:サキ