始恋
「…君は不思議だ」
雲雀、と呼ばれる少年は地面に突っ伏して気絶している少年の髪を梳いていた。
群れていた奴らの身代わりとなった少年。
二人きりになった途端、額から上がった鮮やかな橙の炎。
『かかってこい』
普段の彼からは想像も出来ない強い瞳が己を射抜く。
その瞳を見つめるだけで気持ちが高ぶった。
雲雀にとったらそこまで強い、というわけでもないのに…不思議と惹かれてしまう。
(…なんでだろうね)
考えながら、雲雀は髪を梳き続ける。
少年の髪は見た目以上に固くない。
むしろ、ふわふわとして綿菓子のよう。
食べてみれば甘い味がするのだろうか…
観察すればするほど、この弱い存在に惹かれる理由が分からなくなった。
もやもやとする気持ち。
ふわふわと舞い上がる気持ち。
…けれど、
不快じゃない、この気持ち。
(一体、君は僕に何をしたんだろうね)
雲雀は口元を緩ませながら立ち上がると、肩にかけていた学ランを少年の上に放り投げた。
「…あ、れ?」
気がつけば、屋上には誰もいなかった。
身体のあちこちに出来た掠り傷。
動く拍子にピリッ、と痛みが走った。
(雲雀さん、容赦ないんだもん…)
彼らしいといったらそれまでなのだが
それでも手加減してほしいと思うのは我侭なのか、
「…ま、いっか」
(リボーンにまた言われるから早く授業に戻らなくちゃっ…)
綱吉は痛む身体をゆっくり起こす。
と、
―ズルッ
肩から何かがずり落ちた。
「わわっ…!」
(が、学ラン!?)
誰の、なんて考えるのは野暮だ。
パリッ、きちんとアイロンのかけられた学ランからはほのかに、やわらかい石鹸の香りが漂う。
少年は持ち主の気紛れに青ざめながらも、口元が緩むのを隠すことは出来なかった。
【始恋】
だんだんと近付く、二人の想い