ラプンツェル
「それは違うぞ、ナナリー。人聞きの悪い。むしろ好意的だ」
こんなときルルーシュは不敵に笑っている。ナナリーにはわかる。
「いじわるを言うのは、お兄様がご機嫌な証拠ですものね」
正解だと答える代わりに頭を撫でてきた大きな手のぬくもりは、今日の日差しより暖かい。
激しい時流に飲まれてなお、小さな幸せは揺るがずに残っていた。スザクの口元がほころぶ。
「それって僕的にはどうなのかなあ……」
澄んだ空気の中に笑い声が満ちてゆく。かけがえのないあの夏に戻ったように。鮮やかな芝生を駆け回ったあの日々に戻ったように。
決して不自由ではないけれど、自由にはならないこの場所で、長い髪を垂らして待っていたら会いにきてくれた人。
こんなおとぎ話のような奇跡があるのなら、明日や一年後やずっと先の具体的な将来にも希望を持つことができるようになるだろうか。自分も、ただひとりの大事な肉親も。
ずっと昔に読み聞かせてもらっただけの絵本のあらすじはやはり思い出せなかった。しかし、おとぎ話の最後の一節はお決まりのあの言葉だろう。自分たちにも永久の幸福が訪れると信じてほしいのだ。
少なくとも自分は信じられる気がした。七年ぶりの、心からの笑顔をもたらしてくれた彼のおかげで。