ラプンツェル
物覚えのよいルルーシュがそう言うのだからそうなのだろう。ルルーシュは別の部屋で兄たちとチェスでもしていたのかもしれない。
「お前が童話なんて知ってるとは意外だな」
ルルーシュが含み笑いでからかうように言う。それはナナリーも思っていたことで、しかし聞きかたによってはルルーシュのようにからかう意図が入ってしまいそうで、やめたのだ。もちろん、ルルーシュはからかおうと思ってからかっているわけだが。
「僕だって聞いただけだけどさ。ええと、ラプンツェルのところに王子様がやってきて、塔から追い出されちゃうけど、そのあとふたりは幸せに暮らしてめでたしめでたし、だよね?」
髪の毛で登るってすごいよね、などと笑うスザクの言うあらすじは、ナナリーの記憶にある話と相違ない。ふたりが異論のない様子だったので、物語の始まりやラプンツェルと王子のなりゆきまでは、ルルーシュは言及しないでおいた。グリム童話は子供が読むには毒が強すぎるのだ。
「ではさしずめ俺は、ラプンツェルを塔に閉じ込めている人間嫌いの魔女か」
「えぇ!? だから、絵本に出てくるお姫様みたいってことだよ、人が誉めてるのにそうやって揚げ足とって。ごめんね、ナナリー。気を悪くしないで」
嫌味を言っているのに楽しそうな兄と、誉めているのに弁解しているその親友。何度も経験のあるやりとりが懐かしくも新鮮に感じられる。
「ふふ、大丈夫です。ちゃんと意味は伝わってます」
ふたりの軽口に笑ったはずなのに、途中から声音が変わったのがナナリー自身でもわかった。
「お姫様みたいだなんて……嬉しいです」
自分で口に出すと、なんだか恥ずかしくなってしまった。ナナリー自身、れっきとした皇女であるが、身分がどうとかいう言葉ではないのはナナリーもわかったし、彼は意識していないだろうが、なかなかにロマンチックな言い回しではないか。
スザクに誉められたことがとにかく恥ずかしいくらい嬉しい。顔が赤くなりそうなのをぐっと堪えて、照れ隠しに紅茶を多めに口に含んだ。ゆっくり、しっかりと飲み込んだら、気を取り直して話を続ける。
「お兄様ったら、スザクさんに会えて嬉しいからって、いじわるばかり言っちゃいけませんよ」
ルルーシュを嗜めつつも、どこかナナリーもいじわるを言っている気分になるのが楽しい。なぜならこれは信頼あってこそのことだから。