【APH】いけないことをしませんか?
…師匠…と小さく言葉を漏らした日本の顔が近くなる。触れ合わせるように頬が滑る。薄いシャツの上、這った華奢な手のひらに一瞬だけ、プロイセンは身を竦ませた。
「…何もしませんよ?」
手のひらを止めた日本に、ばつが悪そうな顔をしてプロイセンはまた視線を逸らす。
「うるせー」
シャツを寛げ、僅かに肌蹴た肌には無数の古傷。それをそっと日本は撫でる。
目の前のプロイセンの全てを愛おしいと思う。この傷も、赤い瞳も、白金の髪も、その身体も何もかもが。
「…くすぐってぇよ」
「すみません」
日本はプロイセンの胸に耳を押し当てる。意外にもプロイセンの鼓動は落ち着いていて、とくとくと刻む音は耳に心地よい。日本は視線を伏せる。プロイセンは包まっていた肩から滑り落ちたブランケットを手繰り寄せると日本の肩を覆った。
「冷えるだろ」
それに視線を上げれば、プロイセンは満更でもないような顔をして日本を見つめ、赤い瞳を細めた。
「…師匠は温かいですねぇ」
「お前の方が温いけど」
「そうですか?」
「うん」
背中に回った腕があやすようにぽんぽんと叩かれる。とろりとそれは日本の眠気を誘った。…ああ、随分と昔、袂を別ったあのひとと同じに、やさしい。
(…そう言えば、師匠はお兄さんでしたねぇ…)
「…お前さ、よく解んねぇけど、コミケ?とかで、あんま寝てないんだろ?…もう、寝ちまえ」
うとりと落ちそうになる目蓋に響く、甘くやさしい声。日本は子どものように嫌だと首を振った。
「ここにいるから。お前が重石になってるから、俺、動けねぇし、どこにも行けねぇし。な?」
心音が心地よい。耳に響く声も。
…当初の目的とは違う方向になってしまいましたが、…もうどうでもいいです。あなたの体温が心地良すぎて、融けてしまう…。
「…お言葉に甘えます…」
「…おう」
ゆっくりと落ちた目蓋。聴こえ始めた寝息。それを確認してプロイセンは日本の髪を梳く。
「…これじゃ駄目なのかよ。…俺はさ、お前といると気が抜けて、甘えられるんだけどよ。…ってか、甘えてるんだけど…」
兄でもなく、国でもなく、ただのひととして。
激しい想いに身を焦がすような恋より、穏やかな日々の愛を想う。
「…いけないこと、ねぇ」
胸をちょっとだけ焦がす何か。
作品名:【APH】いけないことをしませんか? 作家名:冬故