君と僕と僕と僕と僕
メグルの顔には、それぞれほんのかすかにではあったけれど、様々な感情が表れては消えた。
俺はなんとなく、メグルは今、何も隠さない、剥き出しの心のままで俺に向かって立っているのだと感じた。
同時に自分がいつの間にかきつく手を握り締めていたことに、そしてその手が汗でじっとりと濡れていたことに気づいた。
「メグル」
俺は沈黙に耐えきれずに口にした。その声がなんだか助けを求めているようだ、と、自分で思った。
「星野くん」
メグルは俺を呼び、きつく眉をしかめ、目を細めた。痛みをこらえるような顔だった。
メグルは数瞬、唇を開いてはためらい、一度は言うまいというようにかたく口を結んで、うつむいた。
そして、小さな声で、なんて顔をしているんだ、というようなことを言った。
「え?」
それは、俺こそお前に思っていたのに。
そう言おうとした瞬間、俺は唐突になにか全てを理解した。俺の感じていたことや知っていたことが全て一線に繋がるような感覚は俺を呆然とさせた。
俺は俺が何をしていたのかを理解した。そして、俺が本当は何を口にしたのかも。
欲しがっていた。
同じものを怖がっていた。
人に好かれたがっていた。
人に好かれるのを怖がっていた。
捨てられるのを怖がっていた。
傷つけられる前に傷つけようとしていた。
それでも愛してくれる誰かを探していた。
そんな自分を恥じていた。
それは、
「…星野くん」
それは
「星野くん!」
メグルは心配そうに俺を呼んでいた。俺はどのくらい黙っていたのだろう。分からないままにああと返事をした。
全てを知っていると思ったはずだ。全てが見えていると思ったはずだ。俺が見ていたのは、本当は、
「ねえ、星野くん」
「…なに?」
「………」
メグルは俺を見ていた。俺はメグルを見ていただろうか?
メグルはまっすぐに俺を見ていた。
「好いとうよ」
メグルは小さく呟いた。辛そうに眉を寄せたままだった。
「オイは、あんたのことを、好いとうよ」
「へえ」
「やけん、……、…………。」
言葉を探しているのか、それ以上言えないのか。メグルは目を閉じてしまった。
「メグル」
「……」
「ごめんね」
メグルは首を横にふった。
そして、辛くてたまらないような声で
「そんなあんたも、好いとう」