骸_錯覚世界7題
1.下等恋愛
ただひとりで辿る輪廻、自分の生は途切れないのだと気づいたときに、ああ、そうか、と思った。もう自分には発情する必要がないのだな、と。それはあくまでも自己保存のための衝動であり、切断と再構築を経て変質もしくは進化と名付けられた種の飛躍を遂げるための手段であったけれど、終わりなく変容していくことの出来る自分にはなくても困らないものに過ぎない。
それはある意味の爽快感と開放感を齎してくれた。三大欲求のうちのひとつを切り捨てることが出来れば、削除したその場所に自分が望む欲求―――それが破壊であるのか構築であるのかはひとまず置いておくとして―――を据えることが可能ではないかと期待さえした。ただの肉の情動、そんなものは、細胞ではなく精神を拠り所とする自分のような生き物にはもはや相応しくない下等な身体活動に過ぎない。
何と素晴らしいことだろうか! 自分はただひとりだけで、この世もあの世も境なく、どこまでも堕ちていくことが出来る。
誰かを待つこともなく、誰かの足取りに合わせることもなく、誰かを引きずり回すこともなく、自分の求めるただそれだけの為に。
誰か他者と繋がるための、情という要素は必要ない。自分は自分で在ればいい。慕情も恋情も愛情もすべては遠い輪廻の果てにしか必要ない。
ただひとりだけ、永く久しく廻り続けるだけでいい。
そう、だから。恋も愛も何もかも、もうすでに自分の中には存在なんてするべくもない。