GUNSLINGER BOYⅢ
街へ連れ出した帝人くんは本当に何もかもが珍しいらしく、大きな目をキラキラと輝かせている。
目を放すとすぐどこかへ行ってしまいそうで危なっかしい。
俺はとりあえずその手を握った。迷子になられたりしたら洒落にならない。
小さな手。
こんなに細いのに、素手で人を殺せるというのだからホント信じられない。
「あんまりよそ見してると迷子になるよ。他に欲しい物とか食べたい物とかある?」
「・・まず、何があるのか分かりません」
「はは。だよねー」
「でも・・・・」
「ん?」
「僕は、臨也さんにこうやって街を連れ回してもらえるだけで幸せです」
上目遣いにそう照れたように言われてまた一瞬思考が停止する。
何なの?。義体には担当官をたぶらかすような技能でも備わってるの?
「・・・・・条件付けって、ホントすごいね」
「だからすぐそういうこと言わないで下さい」
こういう言い方をすると彼はいつも少し哀しそうな表情をする。
その〈好き〉という感情が本物ではないと彼自身も分かっているから。
そう。〈帝人〉と名付けた彼の俺に対する好意は条件付けによって付与された人工的なものだ。
条件付けというのは恋に似ているらしい。
担当官を護りたい。担当官のためだったらなんでも出来る。担当官と一緒にいたい、必要とされたい・・・ect.
俺は断じてそんな人工物に騙されたりはしない。断じてだ。
だから、主人に突き放された子犬みたいな表情になっている彼を抱きしめてやりたいと思う俺の気持ちも、まやかしだ。
分かっていて騙されそうになるほど帝人くんは可愛い。超可愛い。
俺はバイだけど別に少年趣味はなかったはずなのに、俺に会う度に嬉しそうな表情をして、ささいなことに喜んで、微笑んでやれば年頃の女の子みたいに初々しく頬をそめる所なんて殺人的に可愛い。
そのくせ黙って従うのかと思えばそうでもなく、普通に俺に対してツッコミを入れたり注意したりするし言い難いようなことも結構平気でズバズバと言ってくる。
以前見た他のフラテッロでは義体はもっと担当官に従順そうだった気がするけれど・・。
見た目の幼さに比べて内面は大人びているようだし頭の回転も早い。たまに本当に12才かと思うような言い回しをされて驚く。
そんなギャップも含めて、俺は帝人くんを気に入っている。
しかしこれは興味深いというだけで、断じて執着とか愛とかそういうものではない。はずだ。
彼は俺が愛する人間じゃないし、彼の感情は意図的に作られたものなのだから。騙されてはいけない。
「大好きです」だなんてあんな澄んだ瞳で言われても、彼のそれはただのまやかしなのだから。
つづく
作品名:GUNSLINGER BOYⅢ 作家名:net