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思い出にさえなりゃしない。

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「俺は帝人くんが死んでも、思い出したりなんかしないから。」



事故で入院した僕に投げつけられた言葉は、そんな冷たいものだった。

臨也さんが怒っている。
未だかつてないくらいに。
僕は内心げんなりとため息を吐きながら、表面上はしゅんと項垂れた。
なんで怪我した僕がこんな気を使わなければならないんだろう。ほんと。


いつものヘラヘラとした笑みを浮かべない臨也さんは不謹慎ながらいつもよりも格好良い。
もしも臨也さんが常にこんな表情をしていたら倍以上モテルんだろうな。
現に、大して用事の無い僕の病室にさっきから若い看護婦さんが行ったり来たりしている。
明らかに『208号室の竜ケ峰さんとこ、格好いい男の子がお見舞いきてるわよ』と噂になっているんだろう。
まぁ、別に良いんだけど。

臨也さんは僕の怪我の様子を見るなり、不愉快そうに顔を歪め冒頭の一言を言い放った。
まさかお見舞いに来てくれてそんなこと言われると思わなかった僕は、何も言い返せず、ただ「はぁ。」と頷いた。
そんな僕の様子に臨也さんはさらに眉を潜めた。

臨也さんは無言のまま、部屋の隅にあった椅子を僕のベッドの横に置いて、その上にとん、と座った。
僕と目線の高さを合わせたくせに、視線を合わせる気は無いようで、ただナイフを取り出してショリショリと正臣が持ってきてくれた林檎を勝手にむき始める。

いつも無駄に開いてペラペラと話すその唇は横一文字に結ばれ、開く気は無いようだ。
困った。臨也さんと一緒に居て、こんな風に沈黙が僕たちを包んだことなんて今まで無い。
いつだって臨也さんがニヤニヤと笑い、楽しそうに僕をからかっていたから。
自他共に認める気遣い屋の僕としては何か話すべきだろうと思っているんだけど、どうにも話題も無い。
僕はぼんやりと臨也さんの口が開かないかなぁ、と、その唇を見つめた。(開け、ゴマ!)

林檎を綺麗にむき終えた臨也さんは、何故か林檎と僕を見比べる。
その後、臨也さんの口がなんの前兆も無く大きく開かれた。

「はぁ〜〜〜〜。」

そこから出たのはこれでもかというくらい大きなため息だった。

しかも、心底疲れきったような。
ストレスに悩まされたサラリーマンが金曜の夜『今週も一週間乗りきったよ』と、吐き出すような。
いつも愉快なものを探して、自由気ままに生きる臨也さんらしくない。

「…おつかれですか?」
珍しい臨也さんの様子に思わず僕は問うた。
疲れているのに、わざわざお見舞いに来てくれたのだろうか。
嬉しさよりも申し訳なさが募る。

「・・・誰のせいで俺が疲れてると思ってるの?」

冷たい声で返された。
ええ?僕のせい?
いつもなら『何かしたっけ?』と、頭を悩ませるけど、今回は本当に思い当たる節は無い。
だって突然の事故にあってこの5日間、臨也さんには会ってない。
最後に会った一週間前だって『人間ラブ!』と、機嫌良く叫びながら帰って行ったはずだ。
もしも僕に会わないその5日間の間に何か臨也さんを疲れさせることがあったとしても、僕が直接的に関わってるはずが無い。
とばっちりも良いところだ。

「帝人くんてさぁ、ほんとに救いようのない馬鹿だよね。」
続けて嘲笑されるようにそう言われる。
すごい、本当に機嫌が悪いみたいだ。いつもの余裕ぶったからかいが少しも含まれて無い。
本気の冷たい目で冷たい口調でそう言われ、少し背中がゾクッとした。
「…そう、です、かね。」
喉が渇く、臨也さんがむいた林檎が食べたい。
「そうだよ。」
即答された。
そして、次の瞬間、グシャリと、臨也さんの手の中で林檎が潰れた。

僕はぎょっとしてその手を見つめた。
新鮮な林檎はその形を崩し、見るも無残な状態になりながら臨也さんの手を汁で濡らしている。
臨也さんの手は林檎を握りつぶしてもまだ足りないと言うようにギュッと握りこまれ震えていた。
僕は得体のしれない恐怖におびえ、ただただ茫然とその手を見つめた。

そのおかげで臨也さんが恐ろしいほど憎々しげに僕を睨んでいることに気が付かなかったのは、きっと不幸中の幸いと言うのだろう。