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思い出にさえなりゃしない。

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「心配、したんだよ。」
臨也さんは林檎の汁で汚れた手を、看護婦さんが見かねて持ってきてくれたおしぼりで拭きながら、ポツリとそう言った。
臨也さんを見ると、視線は下むきで僕の方を見ようとはしてない。
でも、その一言に全てが詰まってる気がした。
「…ごめんなさい。」
僕が項垂れてそう言うと、「うん。」と臨也さんは頷く。
「ごめん、なさい。」
「うん。」
僕がもう一度謝ると、臨也さんが僕の頭にぽんと手を置く。
優しく撫でられて、僕はどうしようもなく申し訳なくなった。
頭のてっぺんに感じるじんわりとした暖かさから、臨也さんの優しさを感じて、僕はさらに項垂れることになった。




帝人くんの頭に手を置いて、サラサラとした髪の感覚を楽しむ。
髪の毛に覆われた頭からも微かなぬくもりを掌に感じて、俺は心から安心できた。
良かった、生きてる。
俺ともあろうものが、呼吸がとまるほど動揺したんだ。
少しはわかって欲しいんだよ、この気持ちをさ。

帝人くんが死んだりしたら、きっと俺は一度も彼を思い出すことは無いだろう。

だって、思い出すためには一瞬でも帝人くんのことを忘れなきゃいけない。
そんなこと、俺が出来ると思う?

一時だって忘れることなんてできない。

帝人くん、俺は、君のことを思い出にさえ出来やしないんだ。