永四郎は穴だ
俺は強引にキスをしたけれどそれは俺がしたいからしたのか永四郎にそういう気分にさせられたのか分からなかった。
顔を離して、永四郎が何か言葉を口にする前にその唇に指を突っ込んだ。
一瞬目をみはった永四郎は、すぐに心得顔で俺の指をしゃぶった。
ほんの今まで俺の舌と絡まっていた舌が
俺の指を大事そうに舐めねぶっている。
「永四郎」
俺は低く呟いた。
俺は俺が何を考えているのかも、何をしたいのかも分からなかった。
ただ、永四郎はそういうことも全部分かっているんだろうな、と、なんとなく思っていた。
永四郎はそれきり何も言えないでいる俺をしばらく無言で見つめ(いやらしく指フェラは続けたまま)、少し考えてから名残惜しそうに咥えた指を離し、小さく首をかしげてみせた。
そして、普段は使わないような優しい口調で言った。
「ごめんね、平古場クン。ボクはセックスが大好きなのよ」
「……知ってる」
苦い気分だった。
苦い苦い気分だった。
永四郎は苦笑した。
「セックスしようか」
そして続けた、
「それしかできないけど。」
うるさい、と思った。
そんなことを言うな。
けれど、俺はうなずくしかできなかった。
言いたいことも聞きたいことも、いろいろあったのに。
もっと大事な考えるべきこともあるはずなのに。
何も言えなくて聞けなくて考えられなくて
俺はうなずくしかできなかった。
永四郎は穴だ(事実)。
俺は落ちてゆく(結論)。