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あい?まい?みー?MINE!!

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過去、幾度か息子の成績を案じた両親が、塾のように講義制の学習だとついていけないだろうと心配して家庭教師を雇った事があった。
最初の1・2回は両親の顔を立て何とか机に向かい学ぼうとしたものの、どうにも上からの目線で物を言う態度であったり、むやみやたらと学習方法を押し付けて来たりで、直ぐに苛立ってしまい勉強にならず、直ぐに止めてしまうのだ。
その上、大きくなるにつれ静雄の悪評が広まり、頼まれても御免だと向こう側から避けてくれるようになったので、静雄の所に家庭教師がやって来たり、また勧誘が来たりする事は無くなった。
両親も、勿論無理に勉強させたい訳では無く、元気で健康に育ってくれれば良いと言う大らかで自由気質な人であったので、静雄が嫌だと撥ね付ける物を、無理強いしようとはしなかった。
そう言う経緯があり、静雄はこれまでも、そしてつい最近まで、塾も家庭教師も必要無いと思っていた、のだが。

「………俺、行きたい高校が出来たんです。」

低空飛行の成績でも入ろうと思えば入れる学校はある。取り敢えず高校位は卒業しようと、入れれば何所でも良いと静雄は考えていたが、ここになって漸く、自分なりに行きたい高校が出来たのだ。
もう1つ、帝人の教え方が自分に合っていたのか、理解力の上昇に伴いそれまで閉ざしていた視界が開けたようになり、自分の学力が何所まで上がって行けるか、単純に試してみたくなった、と言う点もある。
それに、もしも家庭教師が帝人であるならば、自分は大人しく勉強出来ると思う、と考えるその理由を、静雄は未だ、正しく理解は出来ていなかったけれど。

「へぇ!明確な目標が出来ると、目指すべき地点がはっきりするから勉強の目的もちゃんとするし、良い傾向だよ。ちなみに、差し支え無ければ何所か聞いても良い?」

「来神です。」

私立来神高校。
3・4年前までは来良学園と言う名称だった学校は、私服登校も可能な、自由な校風を売りとした高校である。
徒歩圏内での通学が可能な程家に近く、また、目指すレベルとしては静雄の学力に+αと言った所だ。
上へ向かって勉強すると言う、少し前なら考えもしなかった事に、今静雄は挑もうとしている。
心の何所かで、変わりたいと、思う自分が居るのかもしれない。

「来神!?それ僕の母校だ!」

キラリと目を輝かせた帝人が静雄の返答に喜色を顕す。
目を瞬かせた静雄は、「そうなんっスか?」、と、嬉しそうに微笑む帝人の顔を見た。

「うん。あっ、知ってるかもしれないけど、僕が通ってた頃はまだ来良って名前でね。懐かしいなぁ。」

色んな事があったよ、と、若干遠い目をする帝人は、それでも楽しそうだ。
静雄も帝人の高校生活を思い描いてみようとしたが、如何せん情報が全く無く、イメージは真白だった。

「そっかぁ、来神かぁ。じゃあ、僕の後輩になるんだね。」

「……そうなれるように、頑張りたいと、思います。」

今のままでは足りない事など、これまで静雄の学力水準を間近で見ていた帝人は良く分かっているだろうに、それでもその表情から笑みは消えない。

「大丈夫、君なら出来るよ。何時も言ってるけど、平和島君は"やれば出来る子"、なんだもの。僕が保障するよ。」

何所か安っぽい言葉だ。しかし、静雄に帝人の言葉が響くのは、そこに嘘や世辞、媚を一切含めていないからだ。帝人は本気で、静雄の実力を信じている。それが、静雄には気恥ずかしくて、嬉しい。


「だから…入れるように、竜ヶ峰先生に教えて貰いたい、です。」

消え掛ける語尾と共に目線が落ちて行く。汗を掻き始めたシェイクのカップが見えた。

「…………本当に、僕なんかで良いの?」

弱々しい声音に視線を上げると、声に違わぬ弱った色が、表情に浮かんでいた。
自信が無いと、帝人は言った。静雄は自分の学力が上がった事について、それは間違い無く、帝人の力だと思っている。静雄が自身の存在に自信が無い事と、何所か似ている気がした。
似た者同士、だから静雄は帝人にあまり思う所が無いのだろうかと、年上らしくない顔に笑ってしまう。
小さく噴き出した静雄にきょとんと、実年齢に見合わない表情を浮かべながら、静雄の名を不思議そうに呼ぶ。

「勿論ッス。先生が、良い、です。お願いします。」

勝手に口から出た言葉は、後から考えるとまるで告白の様で非常に恥ずかしい。
だが、大きく目を見開いた帝人の頬に赤味が差し、きょときょと視線を泳がせながら、それでも、「じゃあ、お引き受けします。」、と、諾の返答を寄越したので、静雄はその時、満足以外の感情を抱かなかった。