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あい?まい?みー?MINE!!

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「お待たせ、平和島君!」

 学習会後のミーティングが終わり帝人が学校を出ると、校門の壁に背を預けぼんやりと空を眺めている静雄を見付けた。
声を掛けられた静雄は、聞き慣れた声音にゆるりと視線を向ける。歳上にも関わらず顔の作りも身長さえも静雄に至らない童顔の青年へと向き合った。

「御免ね、ちょっと遅くなっちゃったかな。寒く無い?」

「いいえ、全然。俺、これでも身体が丈夫なのは取り柄なんで。」

緩く首を横に振れば、ホッとした様に息を吐く帝人は柔らかく微笑んだ。

季節は秋を足早に越し、冬化粧への準備を始めたらしく、最近急激に気温が下がって来ている。
日が落ちる早さも同様に、今や茜よりも濃紺、よくよく眼を凝らせば瞬く星さえ見られそうな程だった。
吐く息が白くなるのも時間の問題だろうと、時の早さを感じさせる四季に静雄が想いを馳せていると、「芭蕉だねぇ。」、と、帝人が同様に空を見上げながらポツリと呟いた。

「は?」

「『月日は百代の過客にして、行きこう年もまた旅人なり。』、ってやつ。あれ?中学校じゃ勉強しないんだっけかなぁ?」

うぅん、と帝人は頭を捻る。そのフレーズもどこかで聞いた事はあるかもしれないが、静雄は芭蕉の名は知っていても、記憶が朧げ過ぎて、全く意味が分からなかった。

「まぁ、つまりね、今年も終わるんだなぁ、って、思ったんだよ。早いよね、もう1年経とうとしてるなんて。」

帝人にとっても、静雄にとっても。今年と来年は、様々な境目の年となる。特に帝人は、社会人として生きていかなければならなくなり、こうしてしみじみと時の移ろいを感じられる余裕があるのは、今位のものだろうなぁ、と、聊か達観した感慨に耽るのだった。
静雄も、帝人の言葉に同意した。「そっスね。」、と、今将に同じ事を考えていたのだと、口に出来るだけの勇気を、静雄は持ち合わせてはいなかった。


「あぁ、それで、どうしようか。時間が時間だから、図書館はちょっと期待出来ないよね。」

腕時計を持ち上げ唸る帝人に、「何所でも良いっす。場所は拘りません。」、と静雄は返した。要は、勉強を教えて貰える環境にあれば良い。多少煩くても、この際何とか我慢しようと思う位には、帝人と時間を過ごす事に抵抗を感じなくなっていた。
静雄自身も驚くべき変化だったのだが、2週間程前から、段々と、勉強が楽しくなってきていたのだ。それまで難解だった設問や数式が、糸が解れるように、頭の中で嵌って行く快感。欠けたパズルのピースが見付かったようにスッキリする心地と共に、大きな達成感も得られる。
それまではただ徒に分からないと苛立つだけであったが、理解出来るようになれば驚くほどスムーズに行くソレに、近頃では時折自室の机に座って問題を解く程である。
この変化に最も驚いているのは両親なのだが、その話を聞いた帝人は、「だって平和島君はやれば出来るんだもの。コツさえ分かれば然程難しい事じゃ無い。」、と事も無げに、静雄の本質がそうした真面目な部分を擁しているのだと、疑い無く告げた。静雄が絶句したのは言うまでも無い。

「そうだなぁ…次の時は場所を考えるとして、取り敢えず、今日は、アソコで良い?」

帝人が指すのは、24時間営業を謳うファーストフードのチェーン店だった。
丁度空いていたし、夕飯前に軽く腹ごしらえするのも良いだろうと、2つ返事で了承する。
先導して向かう帝人の後を、静雄は彼の歩調に合わせてついて行った。


 夕飯時に差し掛かる時間帯であり、夜でも、と言うより、夜に差し掛かり更に人口の増して行く街のファーストフードであって、やはりと言うか、それなりに店内は混んでいた。
帝人と静雄は運良く2階の窓際席を見付け、腰掛ける。静雄の入店に伴い店内の一部の人間がそそくさと店を出て行ったが、静雄も、そして帝人も、敢えて素知らぬ振りをした。
レジにて、帝人が奢ると言って憚らないのを静雄がそれは悪い寧ろ自分が奢ると言って譲らず、行列を作り掛ける程ひと悶着があったのだが、それに気付いた帝人が恥ずかしそうに顔を赤らめ、「今回はまぁ、自分の分は自分で出す、って事で、妥協しよう。」、と、サッサと注文し人目を避けるように階段を上って行った。
カタリ、と椅子を引き、席に着く。帝人はコーヒーだけだったが、静雄はがっつりセットと、更に単品で好物であるシェイクを頼んでいた。

「先生、それだけっすか?」

「えっ、うん、そうだよ。何で?」

改めてプレートの上を見、帝人自身を見て、静雄はその痩身の理由の一端が垣間見えた気がした。

「先生、小食ですか?」

「いやいや、普通だよ。…あっ、ひょっとして足りないとか思ってる?大丈夫、家帰ったらどうせ夜食食べるし。」

だから大丈夫だよ、と笑う帝人に、そっと静雄はポテトを差し出した。

「えっ?いや…良いの?じゃあ、有難く頂いちゃおうかな。そう言う平和島君は…別でそれ、何頼んだの?」

「………シェイク、です。…変っすか?」

気不味げに視線を逸らす静雄に、「そんな事無いよ。」、と帝人は何て事無いように返す。

「僕も此処のストロベリーシェイク好きだよ。あーっ、そんな話してたら飲みたくなってきたなぁ。帰り買って帰ろっかな。」

苦笑した帝人を、静雄は眩しい物でも見るかのような眼差しで見遣る。同意してくれたのは素直に嬉しいが、自分の容姿と彼のソレとは随分と差があるから、一般的に見れば静雄のその味覚は似合っていないのだろうな、と心の中では思っていても、静雄は口に出さなかった。


「ハハッ、さて。本題に入ろうか。……平和島君、今日のあのノートの言葉だけど。」

テーブルに肘を突いて手を組み、そこに顎を乗せて静雄を見る帝人の視線は、所謂上目遣いと分類されるものである。
静雄は特に意識した訳ではない筈のその仕草に、一瞬狼狽え僅かに身を揺らした。
その仕草が帝人には緊張とでも映ったのだろうか、「別に怒ってるとかそんな事じゃないから安心して。」、と前置きをして、言葉を切り出す。

「僕は別に構わないよ。時間もあるし、平和島君と会えるのも嬉しいし。平和島君が勉強に意欲的になってくれたのも、勿論、ね。ただ……」

ただ、何だろう、切った言葉の先を待ち望むかのように帝人の目を覗き込む静雄に困った様な笑みを浮かべ、居住いを正した。

「そう、たださ。僕は一介の学生で、教職を取ってた訳でも無いから教鞭を取れる自信も無い。本当に、平和島君の勉強のサポート位しか出来ないよ。本当にちゃんと勉強したいと考えるのならしっかりした家庭教師を雇って教えて貰うのがベストだと思うんだけど。」

案に、そうしたらどうかと持ち掛けられた言葉に瞬間モヤリと心に生まれた気持ちに、静雄は怪訝そうに眉根を寄せた。
その表情を目にした帝人が「いや、違うよ、別に平和島君の家庭教師が嫌とかじゃないからね?僕の自信の問題だから。」と弁解されて初めて顔に出ていた事に気付いて謝罪した。

「あっ、いや、その、別に俺こそ怒った訳じゃ無いっスから!何でも無いんです!! で、あの、家庭教師は……俺、昔から、続かないんスよ、そう言うの。」