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School Days 5月 side門田

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School Days
Side Kadota Kyohei

 五月


 校庭に咲いていた薄い桃色の花の木は気付けば緑色に覆われていた。これからだんだんと緑が栄えてくる季節だな、と頬杖をつきながら教卓で延々と枕草子について語る古典教師の声をBGMに普段考えもしないようなことを考える。そういえば、五月病ってどんな病気だったっけ。
 門田はB5サイズのルーズリーフを半分に切り『五月病ってどんな病気だった?』と尋ねる内容を紙の端に書くと隣の席である新羅の机に向かって放り投げる。
 新羅は紙に気付くと滅多にこんなことをしない彼の行動に少し目を見開き、折られた紙をかさかさと開く。じっと紙を見つめると右手に握ったシャーペンでさらさらと回答を書いて先程門田のしたように彼の席に向かって紙を持ち主の元へ放り投げる。

{五月病っていうのは新入生とかが入学直後の緊張が解けた五月の連休明けから無気力になったり、無関心になったりする病気のこと。ちなみに夏休み明けに精神的に不安定になったりする病気のは九月病。さらにちなみに、臨也が現在進行形で罹患してるのは中二病}

 さすがは闇医者なだけはある。様々な知識に精通してるな、と妙に感嘆してしまう門田。読み終えた後に新羅の方を見ると、彼は小さくピースしてうっすら笑顔を浮かべて返してくれた。
 ありがとう、と新羅が書いてくれた文の下に書き足し再び彼に放る。新羅がその紙を広げようとしたとき、新羅の後ろの席から腕が伸びて門田の投げた紙をさっと新羅の手の中から取り上げた。
 漆黒の髪で双眸が赤眼の彼は門田を見てニマと笑うと新羅が開きかけていた紙を広げて中身を読み始める。門田に向けた笑顔のまま紙に書かれた文字をさらさらと読んでいた彼は、ある一点を見ると僅かにその顔を歪めた。
 そして彼も持っていたシャーペンで紙に何かを書くと斜め前の席になる門田の方に紙を投げる。
 とりあえず紙を開いて中を見てみた。

{別に俺は中二病ってわけじゃないから。至って普通だからね。少しぐらいは歪んでるかも知れないけどさ}
{自覚はあったんだな}

 紙の白いスペースにさっと書くと隣の席の新羅に渡し、こっちを見た新羅に臨也の方に向かって人差し指を向け彼に渡すように目と指で訴える。
 新羅はもはや完全に開かれた状態で渡された紙に書かれた文字を読むと、彼も何かを書き臨也に紙をまわす。受け取った臨也は再び顔を小さく歪めると、紙をくしゃくしゃに丸めて俺の後ろの席で授業が始まる前の休み時間からずっと寝続けている静雄に向かってそれを勢い良く投げつける。
 ほぼ重さの無い紙のハズなのに何故かゴッという音がして静雄が机に伏せていた顔をゆっくりと持ち上げる。反射的に机を前に少し移動させ、椅子も同じく僅かに前に移動させる。
 後ろで唸るような低い声が聞こえた。

「臨也くんよぉ・・・・・・てめぇだろ。これ投げたのは」
「ええー。そうやって何でも俺のせいにするの止めた方がいいんじゃない? 俺じゃなかったらどう責任取るわけ? その場合、シズちゃんには死んでもらうのが一番正しい謝り方かな。池袋、いや地球に住む人類皆がシズちゃんの死を喜んで悼むよ」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃと・・・・・・今は授業中だろうがあああああぁぁぁ」

 ついにキレた静雄は先程まで自分の頭が乗せられていた机を臨也に向かって投げつける。臨也は当然静雄の行動の先を読み、既に机の藻屑にならない安全な場所に避難していた。臨也の静雄とは反対側の隣の席である男子生徒は静雄の投げつけた机がモロに左肩に当たり、おそらく骨折したように見える。
 教室内はキャー、とかワーなどの悲鳴でいっぱいになった。

「・・・・・・始まったな」
「臨也って絶対中二病だよねぇ」
「今はそれよりもあいつら止めねぇと」

 キーンコーンカーンコーンと授業の終了を告げるチャイムが鳴る。教室の中は未だ騒然とする中、先程まで古典文学について熱く語っていた先生は気がつけば教室内から姿を消していた。
 新羅は全く動じず机に頬杖をついて原型を留めない机をぼーと眺める。門田も同じく席に座ったままだったが、立ち上がると新羅の見つめる先にある机を持ち上げ教室の後ろのほうに運んでいく。

「おい。俺が職員室行って準備室の鍵もらってくる間に修復不可能そうな机とか椅子とかあったら後ろに並べといてくれ。取り替えるから」
「あ・・・・・・じゃあ、俺も一緒に鍵取りに行くよ」
「わりぃな」

 教室の前方に固まっていた生徒の中から勇気ある一人の男子生徒が門田に近づいていき、彼とともに教室を出て職員室に向かって歩いていった。
 新羅ははぁと溜め息をついて独り言を呟いたあとに教室を出て行った。

「要するに静雄と臨也は俺に任せるってことでしょ。一番面倒じゃないか」


 静雄は前を走る臨也を追っていた。片手には二本の箒を持って。
 臨也はフェンスなどを軽々乗り越えて、静雄からとにかく距離を取ろうと走り続ける。

「臨也ぁぁ! 止まりやがれ!!」
「やぁだよ。俺が止まったらシズちゃん殴るでしょ?」
「跡形も残らねぇぐらいに殺してやるよ」

 静雄は綺麗な怒り顔を浮かべながら手に持つ箒を臨也に向かって勢い良く投げつける。臨也はひょいとそれを避けると体育館のほうに向かって走り出す。もちろん、臨也を殺すべく後を追いかける静雄も彼の後を追って走り続ける。
 臨也の目には数人の女子生徒が映った。体操着を着て、少し疲れたように昇降口のほうへ向かっていく女子生徒たちの姿が。臨也は頭の中で素早く先に起こりうる事を想定して、体育館の方から別の方向に体の向きを変える。言うまでも無く静雄もその後を追う。

――――――シズちゃんって単細胞だからね

 臨也は自分の思った通り、しかも想定していた多数の生徒ではなく、たった一人の生徒だけがそこに居たことに予想以上の自分の幸運さに喜びを隠せない。まあ、人数云々の話は特にいいのだけれど。
 少し走るスピードを早め、水を飲み終えて校舎に帰ろうとする彼女の肩に手を掛けて話しかける。

「ねぇ君、通りすがりで悪いんだけどさ。俺の代わりになってね」
「・・・・・・え」

 臨也は後ろから自分の名を呼ぶ声を楽しそうに聞きながら彼女の体を少し力を入れて押し、素早く方向転換しその場から立ち去るように走り出す。
 刹那、後ろから大きな物音が聞こえた。走りながら後ろを振り向くと、凹んで地面に横になり水が垂れ流し状態の冷水機、先程声を掛けた女子生徒が地面に転がっており、静雄がその場に立ち竦む姿が見えた。
 これ以上ないほどの笑顔で臨也は忙しなく動かしていた足を止め大きな笑い声を上げる。

「アハハハハ。そうやって人を傷つけて、自らも傷つけて早く死ねばいいのに。シズちゃんなんか、さ」

 臨也はそのまま校舎に向かってゆっくりと歩いていった。
 臨也は昇降口に着くと新羅に出会った。満悦そうな笑顔を浮かべる臨也を見て新羅は溜め息を吐く。

「君は本当にいい意味でも悪い意味でも最低だよね、臨也」
「お褒めの言葉ありがとう、新羅。君には負けると思うけどね」
作品名:School Days 5月 side門田 作家名:大奈 朱鳥