二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

School Days 5月 side門田

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

 新羅は再びふぅ、と溜め息を吐くと向こうの方で地面に倒れている女子生徒の横で呆然と立ち竦む静雄の方へ駆け寄った。
 静雄は今回は全く関係の無い人間にまで被害が及んでしまったことを悔いている。顔を酷く歪めて。
 静雄の心を労わりながらも、まずは被害者である女子生徒をなんとかしなければと新羅は静雄に声を掛ける。

「静雄。とりあえず、この子保健室に運ばないと。そこで治療するから」
「あぁ・・・・・・すまねぇな、新羅」
「元はといえばアイツのせいだからね」

 新羅はあえて臨也とは言わず『アイツ』と呼ぶ。第三者から見ればいまいち理解しがたいかもしれないが、これは新羅の静雄に対する小さな心遣いであり、自らの命を窮地に立たせることを避けるために絶対的な効果を持つ言葉なのだ。もし、今ここで彼の名前を出してしまうと静雄は何をしでかすか分からない。
 小学生からの、所謂幼馴染なので新羅はある程度静雄のことは理解していた。
 明らかに壊れただろう冷水機を道の端に寄せ、女子生徒を静雄に背負わせ三人は保健室に向かった。


「うーん。たいした怪我はしてないみたいだね。不幸中の幸いだよ」
「そっか・・・・・・良かった」
「でも体の右側、たぶん冷水機が直接あたったところだけど、そこは青痣とかできてるし・・・・・・まぁ、湿布とか貼ってたら治るんじゃないかな。多少痛いとは思うけどね、しばらくは」
「・・・・・・そうか」
「それにしてもさぁー・・・・・・」
「?」
「この子、凄い寝不足なんだよね。目の隈が凄いんだよ。見て、静雄」


 静雄の傷よりこっちの方が重症なんじゃないかな、と新羅が静雄が近寄るための場所を空ける。恐る恐るといった様子で静雄はベッドで横になる女子生徒の顔を見た。新羅の言っている通り、確かに目の下に深く隈が出来ており明らかに睡眠不足です、と言わんばかりの顔である。

「治療し始めて終わるまで結構時間あったと思ったんだけどさ、それまでずっと爆睡って・・・・・・。普通痛みとかで起きると思うんだけどなぁ。よっぽど根性あるんじゃない? この子。あ、静雄、門田の様子見てきなよ。彼には教室の修理とか頼んじゃってるからね。僕はこの子見てるからさ。彼のことだからきっとまだ教室内の後片付けしてるんじゃない?」
「そうだな。ちょっと教室行ってくるわ」
「もしそのまま授業受けれそうだったら、そのまま授業受けてくれて構わないよ。僕は読みたかった本があるからさ、それで時間潰しながら彼女のこと見とくよ」
「すまねぇ・・・・・・新羅」
「いいよ。僕が授業なんて受けても実際あんまり意味ないしね。出来れば教室行って僕の鞄を持ってきてくれたら嬉しいんだけどなぁー」
「分かった」

 静雄は一言言うと保健室から出て行った。
 新羅は再びまじまじと彼女の顔を見つめる。

――この子見たことあるんだよね――図書室?

 新羅は以前に試験勉強で門田、静雄と三人で図書室に集まって勉強していたことを思い出した。あのときに門田がたぶん見つめていただろう女子生徒。たぶん、きっとこの子だろう。
 あの時はセーラー服で今は体操服だったから気付くのが遅れたのだろう、と考える。ここで新羅はある重要なキーワードが今自分が思い浮かべた言葉の中に紛れ込んでいたことに気付く。

「セーラー服・・・・・・セルティにピッタリだよね!あぁ、セルティ。君は何て素敵なんだ。もはや花鳥風月の一事物として存在していても私は何も疑わないよ! まさに有頂天外さ!」

 来神高校では、女子は圧倒的にブラザーを着る生徒が多い。そんな中で一年のこんな時期からセーラーを着て登校する女子は珍しいのだ。新羅はあの時の自分と全く同じことを考えていたということは思い出せずに、再び自分の愛する彼女――セルティがいかにセーラーが似合うかを黙々と考え込んでいた。

 あれから静雄が新羅の荷物を持ってきて、しばらく経った。気付けばもう放課後になっている。それでも、ベッドの上の彼女は未だに眠り続けている。これは、静雄が気絶させたっていうのも要因の一つかもしれないけど、一番の要因は間違いなく睡眠不足だろうと新羅は彼女の寝顔を見ながら考える。
 ふと、彼女の目が開く。突然のことに吃驚する新羅。そして言葉を発する。

「あ、起きた」
「えっ!?」
「どう? 一応手当てしたんだけど、まだ痛いところある? あって普通なんだけどね」

 彼女は驚いた様子で此方を見た。彼女は僅かに体を動かしたとき、少し顔を歪めたように見えた。痛くて当然。僕だって何回もそんな思いしてるんだから。やっぱり痛いよね、僕だって痛いんだから、と彼女に声をかけ読んでいた本を閉じる。
 何とかといった様子で上半身をベッドから持ち上げた彼女は新羅の方を見る。

「無理しなくて良いよ。結構近距離で当たったみたいだしね」
「当たった・・・・・・?」
「衝撃的過ぎて覚えてない? 静雄が臨也に向かって投げた冷水機が君に当たったんだよ」
「え・・・・・・ホント?」
「君一年生だよね? 静雄と臨也知らない?」
「いえ・・・・・・あ。”怪物”とか噂されてる・・・・・・」
「それ静雄ね。ただ力が強い馬鹿な奴なだけなんだけど」
「誰が馬鹿だ、新羅」
「あ、静雄。お帰り。荷物持ってきた?」
「おぉ・・・・・・」

 ガラと音を立てて静雄が保健室に入ってきた。既に放課後になってしまったので静雄に彼女の荷物を取りに行くように頼んだのは他でもない新羅である。体操着に書かれた名前と年と組。今まで役立つと思ったことの無いものが意外な場面で役に立ち、改めて体操着の偉大さを知った新羅と静雄。
 静雄は神妙な顔をしてベッドに近づく。

「悪かった」
「え?」
「いや、あのクソノミ蟲に向かって投げた物がお前に当たっちまって・・・・・・」
「ああ! 別に謝らなくても。まぁ確かに痛いけど、故意的にやったわけじゃないし、静雄先輩にも何か理由があったと思うし」

――この子は相当な包容力の持ち主か――それとも―――

 新羅は僅かに目を丸くして彼女を見、そして静雄を見た。今、この場で一番驚きを隠せないのは静雄だろう。今まではそんなことを言ってくれる人はいなかった。
 静雄によって怪我をした彼女は笑顔を浮かべて怪我を与えた張本人である静雄に言う。

「大丈夫だよ、これぐらい。心配してくれてありがとうございます」
「いや、こっちこそ悪かったな・・・・・・」
「いえいえ。それに私怪我とかより昨日睡眠不足だったし、保健室で寝れておかげですっきりしました」
「静雄―。良かったね。”静雄先輩”だって。後輩が出来たよー」
「っ・・・・・・新羅。うるせえ」

 照れて恥ずかしがる静雄を茶化すように新羅が言葉を投げかける。照れ隠しし切れない静雄は新羅の首に手を掛けいつもの力で締め付ける。

「げほ・・・っ・・・静雄、ちょっとぐらいは加減を覚えてよ」
「無理だ」
「大丈夫? 新羅先輩」
「っ・・・・・君は良い子だね! 怪我を負わされた先輩に対してこんな態度で接してくれるなんて。神からの贈り物かもしれないよ。こういう後輩は大事にしたほうがいいよ、静雄」
「あぁ、そうだな」
作品名:School Days 5月 side門田 作家名:大奈 朱鳥