School Days 5月 side門田
静雄が手を離したあとに咽る新羅を心配する彼女。そんな根っからなのか、明るく振舞う彼女を見て静雄は心が安らいでいるようだ。今の静雄にはまさに明鏡止水という言葉が似合うだろう。新羅は彼女を見ながら頭の中で考える。
「そういえば、お前名前何ていうんだ?」
「そういえば聞いてなかったね」
「狩沢絵理華です! よろしくお願いしまーす、静雄先輩! 新羅先輩!」
「おぉ」
「こちらこそ宜しくね、絵理華ちゃん」
先程まで見えない何かに怯えていたような静雄の姿は全く見えず、今は心中穏やかのようだ。
新羅はここで静雄に狩沢の荷物を持って来させた訳を伝える。
「そういえば、今放課後って知ってた?」
「え!? ホント!?」
「うん、ホント。だから静雄に君の荷物を持ってくるようにさっき頼んだんだよ」
「ありがとうございます、静雄先輩」
「おぉ」
「ところで、静雄先輩」
「なんだ?」
狩沢はいつもの彼女のように屈託の無い笑みで静雄に問う。
「あの黒髪の先輩とどういう関係なの!? 受け!? 攻め!? 私、個人的には受けであって欲しいけど、たまには攻めもありだと思うよ!」
「は?」
「静雄・・・・・・聞かなくていいよ」
――そういう子でしたか!!
新羅はがっくりと肩を落とした。
対照的にベッドの上に居る狩沢の表情はキラキラと輝いていた。
「あ、ドタチーン」
「ドタチンって言うな、普通に呼べ」
「ドタチーン。新羅知らない?」
「・・・・・・ハァ。そういえばさっきから見てないな」
門田は何度言っても直してくれない気に入らないあだ名の名付け親の質問に答える。あれから、臨也だけはすぐに教室へ帰ってきた。しばらくすると静雄も帰ってきたが、静雄はやけに大人しくて隣の席が臨也であることのイライラは隠し通せてなかったが、いつもよりは数倍落ち着いた、というより何かを押さえ込めている感じがした。
帰りのホームルームが終わるとまた静雄はすぐに出て行ってしまったし、結局新羅は自分が臨也と静雄を探しに行かせた時から姿を見ていない。
何処行ったんだろー、と臨也が窓の外を見ているのを後ろから見ていると教室の扉が開かれた。
「あ、新羅―! 何処行ってたわけ? 用事あったのに」
「え、何?」
「何処行ってたんだ、新羅。ずっと帰って来なくて。何してたんだ?」
「保健室にいたんだよ」
新羅はわざとおどけたように言って、机の中の荷物を手に持つ鞄の中に詰め込む。っていうか、元はといえば門田が僕を二人に差し向けたんじゃないかーと唸る新羅。ひどく疲れた様子で椅子に腰掛けぐったりする。
門田は怪訝な顔をして新羅を見る。
「保健室? 静雄、怪我したのか?」
「まぁ静雄もしたけど」
「も?」
門田はさらに顔を深く歪めて新羅を見る。
そんな門田を見ながら机に突っ伏している新羅はぼそぼそと答える。
「臨也の避けた静雄の攻撃が別の生徒に当たちゃってさ。しかも冷水機」
「それでその生徒は怪我したのか」
「言うまでも無いと思うけどね。とりあえず包帯とか湿布しといたけど。特に大事に至る怪我は無かったみたいだったよ。」
新羅から吐き出された言葉を聞くとすぐ、窓際に座る臨也の腕を引いて教室から出ようとする門田。臨也は何で自分が引っ張られているのか分からず門田の行動がうっとおしそうな様子であった。
「ちょっと、ドタチン。何で俺引っ張られてるわけ」
「お前、ちゃんと怪我させた相手に謝ったのか?」
「俺が怪我させたんじゃなくて、シズちゃんが怪我させたんじゃん」
新羅のそばに立つ静雄はギロと臨也を一睨みするとすぐに別のところへ視線を移す。
「とりあえず謝りに行け」
「何で俺がー!?」
「当然だ」
半強制的に門田によって保健室に連れられた臨也。
しかし、彼らが訪れた保健室は既にもぬけの殻だった。保健室のベッドはシーツに少し皺が寄っていた。
「誰もいないじゃん」
「帰ったんだろうな。・・・・・・臨也、次会ったときは必ず謝罪するんだぞ」
念を押すように臨也の顔を見て言う。
臨也はキャーと女みたいな叫び声を小さくあげて門田を見る。
「そんなに見つめないでよ、ドタチン」
「・・・・・・分かったな?」
「・・・・・・はいはい。でもさ、俺その子の顔覚えてないんだよね。だからそれ無理」
門田は臨也の頭に拳骨をくらわせると、教室にいる静雄と新羅を誘って一緒に帰った。
すでに陽は沈みかけていて空には橙色が一面を覆っていた。
作品名:School Days 5月 side門田 作家名:大奈 朱鳥